毎年夏と冬に開催されるコミックマーケット。来場数は年々、増え続けている(EPA=時事)
華やかに見えて、地道な日々の積み重ねが声優だ。だが、前述の第三次声優ブームのもと、声優の撮り下ろし写真が表紙を飾る声優専門誌も誕生した。そのため若手声優にはビジュアルと歌えることが求められるようになり、雑誌のグラビアに起用されることが前提になった。私も1990年代当時、出版社でたくさんの声優を雑誌の撮影やインタビューにキャスティング、執筆した。花子さんもその波に乗り始める。
「でも最初からそんな華やかな仕事は来ません。今は知りませんが、私たちの時代はかわいい子だろうがイケメンだろうが、声の仕事なら何でも振られましたよ。声優はなにもアニメに限りませんから」
アニメや映画の吹き替えばかりが声優の仕事と思われがちだが、声の仕事は多岐にわたる。TVやラジオ、ドキュメンタリーのボイスオーバー、CMナレーションから解説ビデオや店舗の案内、大手事務所、老舗事務所は営業の歴史と積み重ねがあるのでとくに豊富だ。
「子ども向けの通信教材とか、資格講座とか、ダイヤルQ2なんてのも…っていまの若い人は知らないか(笑)。こういった依頼は事務所の一括丸請けだったりするので、私たち新人にもお仕事が回ってきて、とてもありがたかったです。名前は出ませんが、声のお仕事でお金をもらえるということは、プロということですから、嬉しかったですね」
事務所の若手は、こういった仕事を経験して声のプロとして成長していく。1990年代、花子さんはまだ古き時代の声優業界の慣習がかすかに残る時代の人だ。
「そのうち、ゲームのお仕事をたくさんいただけるようになりました。というかいつの間にか若手の女性声優はみんな駆り出されるくらいにゲームのお仕事が増えて、私すらメインキャラクターとしてキャスティングされるほどになったんです。アニメでは名前のつかない役か、ついても単発の役ばかりだった私がメインの一人になれた。ですからゲーム、とくに恋愛ゲーム人気はありがたかったです」
『ときめきメモリアル』(1994年~)から人気に火のついた恋愛ゲームと、美少女ばかりが登場するゲーム、当時は「ギャルゲー」と呼ばれたジャンルが大量に作られた時期だった。もちろんファンを当て込んで有名声優のみを起用する例もあったが、大半は予算やスケジュールに融通がきく若手が大量起用された。事務所が一括受託する場合もあり、その場合は人気声優との抱き合わせで、新人はもちろん、仕事の少ないベテランをねじ込むこともある。
「恋愛ゲームの仕事は拘束時間が凄いんです。いろんなルートとか、パターンとかで収録しますから、台本も電話帳みたいで(笑)。ゲームの場合は一人で収録なので、電話ボックスみたいなところに入ってひたすら演じます。私は喉が強いから、それもゲームに向いていたのかもしれません。楽しかったですよ、キャラクターのイメージ画があって、とてもかわいい女の子で、私が女子高生に戻って演じるんですから」