茨城県大洗町は同地を舞台にしたアニメ「ガールズ&パンツァー」のファンが訪れることでも知られている(時事通信フォト)

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「でもね、私はとっても幸せだったと思います。声優として表舞台に立てて、アイドルみたいな経験までさせてもらえて、キャラクターも私の演じた声も、名前も永遠に残るんです。このお仕事を選んでよかったと思ってます。消えた声優とか消えた理由とかいろいろネットで書かれたことは昔の仲間から聞いています。でも私が満足ならそれでいいんです。これも青春の思い出です。だから先に進めるんです」

 私は著書『しくじり世代』で相対的な幸せでなく、幸福の絶対化による「しくじり」からの脱却をマウント好きな団塊ジュニアに向けて訴えたが、花子さんはそれを知っている。やりきった人とは、自身の幸福に目覚めた人とはなんと美しいのだろう。

「でなければ声優なんて茨の道、選んでません!」

 すがすがしいくらいの思い切りだ。もちろん、なんと言われてもボロボロになるまでやり続けるのもいいだろう、それもまた、幸福の絶対化だ。

「私たちの世代はいろいろあったかもしれませんが、幸せだったと思います。たくさんの素晴らしいアニメや漫画、ゲーム、それが世界に誇る作品になり、その当事者として喜びをたくさんもらえました。私がオタクだから、声優だったからではなく、自分の幸せは自分で決めるものだと思いますし、もう決まっているのに気づいていないだけかもしれません」

 何であれ、成功体験を消化できた人は強い。成功したことを、あのときは良かったのにと今を恨むための材料にするのではなく、ひとつの幸せな体験として自分のものにしている。アラフォーで独身であること、子供がいないことをあげてマウントをとってくる人も周囲にはいるだろう。だが、これからまた、別の幸せが手にできると信じる強さが今の、そしてこれからの彼女を支えるだろう。

 声優は特殊な例だと言われるかも知れないが、そんなことはない。突出した英雄やヒロインである必要はない、それは誰にでもあるはずの、花子さんの言うところの「幸せ」だ。相対的な幸せでない、絶対的な自分だけの幸せだ。幸福の絶対化はすべての仕事であれ、家庭であれ、人間関係にも共通する。そうでなければいつまでも、「しくじり世代」だ。

●ひの・ひゃくそう/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。ゲーム誌やアニメ誌のライター、編集人を経てフリーランス。2018年9月、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。2019年7月『ドキュメント しくじり世代』(第三書館)でノンフィクション作家としてデビュー。12月『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)を上梓。

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