団塊ジュニアの声優のほとんどは、アニメの影響で志望した口だろう。実際、かつて数え切れないほどその世代の声優たちにインタビューしてきたが、みな口々にアニメ作品とキャラクターからの影響を語っていた。
「決めたらこれって性格なんで(笑)。声優の道以外考えられなかったんですね。声優になりたかったから、手当り次第に応募して養成所に受かりました。それにね、私のころはいまほど鬼倍率じゃありませんし、いまなら私なんて落ちてますよ(笑)」
過去の声優ブームはあくまでファン層やその行動範囲を広げたものだった。しかし、1990年代に『美少女戦士セーラームーン』(1992年~)や『新世紀エヴァンゲリオン』(1995年~)が社会現象となるほどのブームとなったことで起きた第三次声優ブームは、それまでと異なる現象をひき起こした。
『新世紀エヴァンゲリオン』の綾波レイなど数々のヒロイン役を持つ林原めぐみや、声優初の武道館コンサートを開いた椎名へきる、最近実写化もされた『ママレードボーイ』アニメ版でヒロイン役をつとめた國府田マリ子らが歌にグラビアに大活躍する姿が「私もなりたい」という憧れ層を大幅に増やし、1990年代後半に声優志望者の激増、いわゆる「声優になりたいブーム」をひきおこした。その結果、青二塾、日本ナレーション演技研究所といった大手声優事務所の養成所志望者はこれまでの何倍も殺到し、アニメやゲームの専門学校が声優科を全国に乱立させた。
この「声優になりたいブーム」が起こる前だから声優になれた、と謙遜する花子さんだが、養成所に合格したのは声質だけでなくビジュアルも評価されたからだろうと伝えると、
「ありがとうございます。容姿はうーん? ですけど、声には自信がありました」
彼女は高音のいわゆる「アニメ声」だが低音域のくっきりとした張りが覗く、独特のあやうさが特徴的な10代の少女にはぴったりの声質をしている。いろいろ謙遜しても声は誇る、やはり声優は声に自信があってなんぼだ。
「養成所から事務所に所属できるのはわずかです。事務所に所属しても、アニメでメインキャストを張れる方はさらに限られます。当時のアニメは本当に狭き門で、テレビアニメはもちろん、OVA(ビデオ専売のアニメ)にしろドラマCD(アニメの番外編や漫画のストーリーを音声だけで構成したもの)にしろ、すでに売れている方に指名が集中します。新人は事務所にオーディションのお知らせが来たらテープオーディションならそのあとのスタジオオーディションに呼ばれるためのデモテープを作ったり、いきなりスタジオオーディションの作品なら大チャンスですからバイトも休んで駆けつけます。現場によっては事務所の方がお願いしてスタジオ見学、そこで制作スタッフの方々に顔と名前を覚えていただくとか、華やかなイメージとは違う地味な日常の積み重ねです。というか私たちのころはベテランの方でも仕事のあるなし以外、それほど違いはありません」