「個人的な意見ですが、患者を診る医師の立場から言えば、致死率が1%を大きく割り込む病気を理由に疑わしいぐらいの人々を隔離するのは、隔離された人々への負担が重すぎます。一方で、流行を防止する公衆衛生の立場からは、仮に致死率が0.1%でも数十万人の患者が出れば数百人が死亡することになり、発症前の隔離もやむを得ないかもしれません。この2つの考え方のバランスを取ることが難しい」
乗客からすれば、早く下船して日常生活を取り戻したいだろうが、それによって、多くの国民の日常生活が害される恐れがある。個々人の自由を尊重すれば、その自由を成り立たせている社会基盤が崩れかねない。
評論家の呉智英さんは「隔離やむなし」との見解だ。
「非常時においては、平時のように『みんなで議論して妥協点を探そう』とはいきません。悪性の感染症者を隔離する例は過去にもありましたが、今回も同様に隔離が必要です。差し迫った状況ゆえに全員が納得できる回答はあり得ず、公権力を行使してウイルスに感染した可能性のある人々を隔離する必要があります」
ヘルスコミュニケーションが専門の京都大学大学院医学研究科教授の中山健夫さんはこう言う。
「同じ事実を目の前にしても、人それぞれの価値観や立場によって、行動や考え方は違ってくる。“解放してあげて”と思う人もいれば“隔離したままの方がいい”と思う人もいるでしょう。一般の人たちが心の中で考えることは自由ですが、不安に振り回されすぎることは危険な時があります。今は自身や家族の身を守るために手洗いを徹底するなど、個人レベルできちんとすることが第一です。必要以上に騒ぎ立てずに動向を見守るという考え方が大切です」
◆医療機関パンクの懸念と「正しく恐れる」ことの重要性
現状、想定されている感染力を考えると、不特定多数の人が利用する電車やバスといった密室の移動手段はリスクと言わざるを得ない。会社や学校に行くことは、もはや文字通り“命がけ”となるのだ。名古屋市衛生研究所微生物部長の柴田伸一郎さんが指摘する。
「2009年に新型インフルエンザが流行した際は、地域によっては小中高が臨時休校になり、街の興行施設(映画館など)が自主的に営業を停止しました。今回の新型コロナウイルスも感染が広がれば、同じ対応になるかもしれません」