例えば冒頭のケースなら、「検査はしなくていいんですか?」「ほかの病院では以前、似た症状が出たときに検査をしてもらったのですが、なぜ今回はしないのですか?」「薬はたった3日分でいいのでしょうか」など、思ったことを素直に聞けばいい。
「むしろ、こういう質問をされて、ムッとして答えてくれない医師なら、病院を変えた方がいいかもしれません。一度かかった医師は、あまり変えない方がいいと言いましたが、コミュニケーションを取ろうとしない医師は別。検査の副作用についてや“3日間この薬をのんで病状が変わらなければ、ほかの病気の可能性もあるのでまた来てください”などの見通しを説明して安心させてくれる医師なら、信頼できると思います」
◆老化による諸症状は治らないと知ってほしい
患者が持つ、拭い切れない医師への不信感は、コミュニケーション不足からくるボタンの掛け違いであることがわかった。前述のケース以外にも「治る」という意味の取り違いも多いと山本さんは言う。
「患者さんは、病院に二度とかからなくていい、医療から完全に解放されることを『治る』と思っているようですが、そういう意味では、中高年以上のかたに多い生活習慣病のほとんどは『治らない』といえます」
糖尿病や高血圧、高脂血症などの生活習慣病は、薬をのみ続けて血糖値や血圧などの数値を安定させ、重病化を防ぎながら、長期的につきあっていく病気だ。これらの病気を発症した場合、患者の思う意味での「治る」ことはないという。
また、「老化」を「病気」としてとらえているケースも多く、そういった場合も「治る」とはいえない。腰や関節などの慢性的な痛みがその代表例だ。
「病気と加齢によって生じる諸症状の境界線は、はっきりしません。加齢による関節痛に対し、“なぜ治してくれないんだ”と言われても、それは若返らせない限り難しい。とはいえ、そうは言えませんから、私はこういった場合、“長く使ってきた体ですから、これからも労っていきましょう”と説明します」
加齢は治せないが、医療で痛みなどのコントロールはできる。だからこういう場合は、「治してください」と言うよりも、「夜は特に痛みが強いので、痛みを軽くする薬をください」などと相談してみよう。
患者は、医師の医療技術よりも、自分の質問や相談に納得いくように答えてくれるか、そういった点を注視した方がいいのである。
【プロフィール】
◆外科医・山本健人さん/「外科医けいゆう」のペンネームで、ブログ「外科医の視点」を開設し、医療情報を発信。主な著書は『医者が教える正しい病院のかかり方』(幻冬舎新書)。
イラスト/ユキミ
※女性セブン2020年3月5日号