ライフ

人はどうしたら安らかに死ねるのか 禅が教える生き方と逝き方

曹洞宗建功寺住職の枡野俊明さん

 厚生労働省のまとめによると、2019年には100歳以上の高齢者数が7万人を超え、数字的にも「人生100年時代」を裏づけるかたちとなった。仕事を離れてからの期間が長くなり、そのなかで多くの人が「死」について考えるようになっている。“どう死ぬか”は、人生晩節の重要テーマといっていい。ヒントは「禅にあり」とするのが、先頃『定命(じょうみょう)を生きる よく死ぬための禅作法』(小学館刊)を上梓した曹洞宗建功寺住職の枡野俊明さんだ。どうしたら、よい死を迎えられるか。枡野さんに聞いた。

 * * *
──よく死ぬ、よい死を迎える、といってもなかなか具体的なイメージが湧かない気がするのですが、簡潔にいうとどういうことでしょうか。

枡野:思いを残さないこと、安らかな心、穏やかな心で、目前の死に向き合うことだ、とわたしは考えています。「できるだけのことはやりきったなぁ。なかなかいい人生だったじゃないか」と思えること、といってもいいですね。

──長い人生ですべてを“やりきる”というのは、とても難しいと思うのですが……。

枡野:たしかに人生は長いですが、よく考えていただくと、それは一瞬、一瞬の積み重ねですよね。人生のどのステージにいても、人は「今」という一瞬を生きていますし、できることはその一瞬にしかないわけです。今をやりきる、一瞬をやりきる、ということなら、できるのではありませんか。

 たとえば、みなさん食事をされますよね。食事をするときは、そのことをやりきる。禅に「喫茶喫飯」という言葉があります。お茶を飲むときは、飲むことだけに集中する。食事をいただくときは、いただくことだけに一生懸命になる、という意味です。それがやりきるということですね。

 でも、みなさんの食事はそうなっているでしょうか。テレビを観ながら、新聞に目を通しながら、スマホをチェックしながら、といったことになっているのではありませんか。やりきっていないのです。そこをやりきるようにすればいい。心を込めて、ていねいに、食事をいただく。そんなに難しいことではないでしょう。すると、味わいも格別のものになりますし。食事をいただけることへの感謝の気持ちが湧いてきます。それが、禅でいう、やりきっている姿といっていいでしょう。

──それなら、心の持ち方ひとつでできそうですね。

枡野:できます、できます。食事にかぎったことではありませんよ。一事が万事です。挨拶でも、掃除でも、もちろん、仕事でも、また、趣味やスポーツでも、それをすることだけに集中する、一生懸命になる、ことはできるはずです。

 禅ではそれを「(そのことと)一枚(ひとつ)になる」といいますが、禅の根本的な考え方、もっとも大切な教えは、そのことにある、とわたしは思っています。ひとつになることが、すなわち、やりきることです。

──そのようにして、日常のさまざまなことをやりきっていったら、よい死を迎えられるということでしょうか。

枡野:やりきったという思いは、達成感、充実感をもたらします。それは、満足感にも、幸福感にもつながっていくでしょう。もちろん、そこには喜びや楽しさもあるはずですよね。そんな「今」が積み重なっていったら、「おお、いい人生じゃないか!」ということになりませんか。

“いい人生”と“よい死”はコインの裏表です。いい人生を紡ぐことにつとめていたら、それでいいのです。良寛さんにこんな言葉があります。「死ぬる時節には死ぬがよく候」。死ぬときがきたら、ただ死んでいけばいい、ということですね。この“ただ”は、恬淡として、安らかに、清々しく、ということでしょう。(そのときどきの今を)やりきった、いい人生の先には、そんな死が待ってくれています。

 * * *
 冒頭で触れた枡野さんの近著は、著者としてはじめて死を中心テーマに据えた作品だという。「人生100年時代」の格好の終活ヒント読本になりそうである。

関連キーワード

関連記事

トピックス

世界中でセレブら感度の高い人たちに流行中のアスレジャーファッション(左・日本のアスレジャーブランド「RUELLE」のInstagramより、右・Backgrid/アフロ)
《広瀬すずもピッタリスパッツを普段着で…》「カタチが見える服」と賛否両論の“アスレジャー”が日本でも流行の兆し、専門家は「新しいラグジュアリーという捉え方も」と解説
NEWSポストセブン
浅香さんの自宅から姿を消した内縁の夫・世志凡太氏
《長女が追悼コメント》「父と過ごした日々を誇りに…」老衰で死去の世志凡太さん(享年91)、同居するスリランカ人が自宅で発見
取締役の辞任を発表したフジ・メディア・ホールディングスとフジテレビ(共同通信社)
《辞任したフジ女性役員に「不適切経費問題」を直撃》社員からは疑問の声が噴出、フジは「ガバナンスの強化を図ってまいります」と回答
NEWSポストセブン
子宮体がんだったことを明かしたタレントの山瀬まみ
《“もう言葉を話すことはない”と医師が宣告》山瀬まみ「子宮体がん」「脳梗塞」からの復帰を支えた俳優・中上雅巳との夫婦同伴姿
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《12月1日がお誕生日》愛子さま、愛に包まれた24年 お宮参り、運動会、木登り、演奏会、運動会…これまでの歩み 
女性セブン
海外セレブの間では「アスレジャー
というファッションジャンルが流行(画像は日本のアスレジャーブランド、RUELLEのInstagramより)
《ぴったりレギンスで街歩き》外国人旅行者の“アスレジャー”ファッションに注意喚起〈多くの国では日常着として定着しているが、日本はそうではない〉
NEWSポストセブン
虐待があった田川市・松原保育園
《保育士10人が幼児を虐待》「麗奈は家で毎日泣いてた。追い詰められて…」逮捕された女性保育士(25)の夫が訴えた“園の職場環境”「ベテランがみんな辞めて頼れる人がおらんくなった」【福岡県田川市】
NEWSポストセブン
【複雑極まりない事情】元・貴景勝の湊川親方が常盤山部屋を継承へ 「複数の裏方が別の部屋へ移る」のはなぜ? 力士・スタッフに複数のルーツが混在…出羽海一門による裏方囲い込み説も
【複雑極まりない事情】元・貴景勝の湊川親方が常盤山部屋を継承へ 「複数の裏方が別の部屋へ移る」のはなぜ? 力士・スタッフに複数のルーツが混在…出羽海一門による裏方囲い込み説も
NEWSポストセブン
アスレジャースタイルで渋谷を歩く女性に街頭インタビュー(左はGettyImages、右はインタビューに応じた現役女子大生のユウコさん提供)
「同級生に笑われたこともある」現役女子大生(19)が「全身レギンス姿」で大学に通う理由…「海外ではだらしないとされる体型でも隠すことはない」日本に「アスレジャー」は定着するのか【海外で議論も】
NEWSポストセブン
中山美穂さんが亡くなってから1周忌が経とうとしている
《逝去から1年…いまだに叶わない墓参り》中山美穂さんが苦手にしていた意外な仕事「収録後に泣いて落ち込んでいました…」元事務所社長が明かした素顔
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)(Instagramより)
《俺のカラダにサインして!》お騒がせ金髪美女インフルエンサー(26)のバスが若い男性グループから襲撃被害、本人不在でも“警備員追加”の大混乱に
NEWSポストセブン
(左から)中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏の人気座談会(撮影/山崎力夫)
【江本孟紀・中畑清・達川光男座談会1】阪神・日本シリーズ敗退の原因を分析 「2戦目の先発起用が勝敗を分けた」 中畑氏は絶不調だった大山悠輔に厳しい一言
週刊ポスト