国内

トイレットペーパー品切れの要因は「疑似パニック」の連鎖

トイレットペーパー争奪戦はいつまで続く?

トイレットペーパー争奪戦はいつまで続く?

 臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々の心理状態を分析する。今回は、マスクに続きトイレットペーパー品切れ騒動について考察する。

 * * *
 ドラッグストアやスーパーの棚からティッシュやトイレットペーパーが消えた。新型コロナウイルスの感染拡大により、「マスクの次に不足する」とネット上でデマが拡散したことが原因だが、それを情報番組が詳しく報じたものだから、普段ネットを見ない人々にもデマが一気に広がったのだろう。世界保健機関(WHO)が懸念していたデマや誤った情報が急速に拡散する「インフォデミック」だ。

 実際、近所のドラッグストアでは、店員が棚にトイレットペーパーを補充した途端、争奪戦が繰り広げられパニック状態になった。店員たちが「中国ではなく、日本で作られているから不足はしない」「倉庫には在庫がある」と懸命に説明するが、買えなかった人々の顔は不安で一杯。「いつ入荷されるのか」と声を荒らげて詰め寄る者もいれば肩を落として立ち去る者もいる。誰もがデマを信じているわけではないだろうが、手に入らない、確保できないという事実が彼らの不安をさらにかき立てる。

 この時、棚の前の人々に起きていたのは「獲得パニック」だ。獲得パニックとは希少資源に向かって同時に殺到すること。生活必需品であるトイレットペーパーが不足するかも?という情報により不安が駆られ、この危機を回避するため店に急いだのだ。

 そうしたくなる心理もわかる。マスクはすでにどこも品切れが続き、消毒用品さえ購入したくても手に入らない。必要な物が必要な時に確保できないかもという不安は、この状況でいっそう強まっている。その上、いくら自分や家族が自衛手段を講じても、事態は悪化の一途を辿り感染が収束する気配さえない。

 企業では在宅勤務やテレワークが進み、街は閑散。右を見ても左を見てもマスク姿の人ばかり。政府の対策は後手に回り、安倍首相はスポーツや文化イベントの自粛を要請しただけでなく、突然、全国の小中高の一斉休校を発表。コロコロと変わる政府の方針転換に振り回された人々の不安と不満の声が、そこかしこから聞こえてくる。そしてタイミング悪く今回のデマ情報が出現。予想できないことが突発的に起こる可能性や時間的な切迫感から、人々を「今、対処しなければこの先どうなるのか…」という気持ちにさせてしまったのだろう。

 情報番組ではデマに惑わされず冷静にと呼び掛けつつも争奪戦の様子が流れ、奪いあう人々と空っぽの棚が視聴者の心に衝撃を与える。こうなるといくら首相が「十分な在庫はある」と会見で述べ、「事実ではない噂が飛び交っている」と否定しても、目にした映像のインパクトのほうが上回る。しかも百聞は一見にしかずで、実際、身近でその様子を目にしてしまえば、本当に大丈夫なのかと疑心暗鬼になってくる。

 今や“○○不足”というキーワードは、それだけで情報になってしまう。情報が正しいか正しくないかに関係なく、そのキーワードがあるだけでホントらしく思えてしまうから怖い。今の状況にストレスを感じている人ほど焦燥感や切迫感を煽られ、つい店へと向かってしまう。デマやそれを報じたマスコミ情報によって行動してしまう「疑似パニック」だ。

 中にはデマだとわかっていても品切れ続きを嫌い、先に確保しておこうと店に向かった人もいただろうし、目の前で早い者勝ちの状況が起きれば、つい手を伸ばして買ってしまうだろう。そんな人の脳裏に無意識のうちに浮かんだのは、オイルショック時や東日本大震災の時の空棚と必需品を探し求めた苦い思い出だろう。

 気がつけば、わが家ではトイレットペーパーの在庫がもうすぐなくなるではないか。緊急事態だ。正しい情報こそが感染拡大の防止につながるなどと言っている場合ではない。でも、果たして買えるのだろうか…?

関連記事

トピックス

鉄板焼きデートが目撃されたKing & Princeの永瀬廉、浜辺美波
《デートではお揃い服》お泊まり報道の永瀬廉と浜辺美波、「24時間テレビ」放送中に配慮が見られた“チャリT”のカラー問題
NEWSポストセブン
経済同友会の定例会見でサプリ購入を巡り警察の捜査を受けたことに関し、頭を下げる同会の新浪剛史代表幹事。9月3日(時事通信フォト)
《苦しい弁明》“違法薬物疑惑”のサントリー元会長・新浪剛史氏 臨床心理士が注目した会見での表情と“権威バイアス”
NEWSポストセブン
海外のアダルトサイトを通じてわいせつな行為をしているところを生配信したとして男女4人が逮捕された(海外サイトの公式サイトより)
《公然わいせつ容疑で男女4人逮捕》100人超える女性が在籍、“丸出し”配信を「黙認」した社長は高級マンションに会社登記を移して
NEWSポストセブン
2才の誕生日を迎えた悠仁さま(写真/宮内庁提供)
【9月6日で19才に】悠仁さま、40年ぶりの成年式へ 御料牧場、小学校の行事、初海外のブータン、伊勢新宮をご参拝、部活動…歩まれてきた19年を振り返る 
女性セブン
麻薬取締法違反で逮捕された俳優の清水尋也容疑者(26)
「同棲していたのは小柄な彼女」大麻所持容疑の清水尋也容疑者“家賃15万円自宅アパート”緊迫のガサ当日「『ブーッ!』早朝、大きなクラクションが鳴った」《大家が証言》
NEWSポストセブン
当時の水原とのスタバでの交流について語ったボウヤー
「大谷翔平の名前で日本酒を売りたいんだ、どうかな」26億円を詐取した違法胴元・ボウヤーが明かす、当時の水原一平に迫っていた“大谷マネーへの触手”
NEWSポストセブン
麻薬取締法違反で逮捕された俳優の清水尋也容疑者(26)
《同居女性も容疑を認める》清水尋也容疑者(26)Hip-hopに支えられた「私生活」、関係者が語る“仕事と切り離したプライベートの顔”【大麻所持の疑いで逮捕】
NEWSポストセブン
サントリー新浪剛史会長が辞任したことを発表した(X、時事通信フォト)
大麻成分疑いで“ガサ入れ”があったサントリー・新浪剛史元会長の超高級港区マンション「かつては最上階にカルロス・ゴーンさんも住んでいた」
NEWSポストセブン
賭博の胴元・ボウヤーが暴露本を出版していた
大谷翔平から26億円を掠めた違法胴元・ボウヤーが“暴露本”を出版していた!「日本でも売りたい」“大谷と水原一平の真実”の章に書かれた意外な内容
NEWSポストセブン
ロコ・ソラーレ(時事通信フォト)
《メンバーの夫が顔面骨折の交通事故も》試練乗り越えてロコ・ソラーレがミラノ五輪日本代表決定戦に挑む、わずかなオフに過ごした「充実の夫婦時間」
NEWSポストセブン
サークル活動にも精を出しているという悠仁さま(写真/共同通信社)
悠仁さまの筑波大キャンパスライフ、上級生の間では「顔がかっこいい」と話題に バドミントンサークル内で呼ばれる“あだ名”とは
週刊ポスト
米カリフォルニア州のバーバンク警察は連続“尻嗅ぎ犯”を逮捕した(TikTokより)
《書店で女性のお尻を嗅ぐ動画が拡散》“連続尻嗅ぎ犯” クラウダー容疑者の卑劣な犯行【日本でも社会問題“触らない痴漢”】
NEWSポストセブン