パンフレットには某深夜アニメのキャラクターが並び、スクールの名前とおそらくスクール生であろう子たちの顔が囲みで紹介されていた。正直言って、今から思えば人気になることもなく静かに放送が終わったアニメだった。よくある話で珍しくもないが、作品と声優専門学校がタイアップをしているため在校生が出演しているのだ。パンフレットの写真には学生として作品に参加した新人志望者たちの顔が並んでいたが、そこに石井さんのようなおじさんは見当たらない。個人的には演技未経験のミドルやシニアの声優志望がいたっていいと思うが、有望な若手が大量に供給され、ふるい落とされる鬼倍率の声優業界、まともな事務所がそんな人を受け入れるかといえば「NO」だろう。声優は若くして目指すものという暗黙の了解は存在する。その辺は役者や芸人、歌手より門戸が狭いかもしれない。
◆「声優になれなかったら、学校のせいでしょ」
私はあらためて石井さんに問いかける。
「石井さん、どんな声優になりたいですか?」
石井さんは身振り手振りで有名声優の名前を列挙した。現実の声優の仕事はボイスオーバーやナレーションなど多岐にわたるので、そういった方面の話も振ってみたが、アニメの登場人物、いわゆるアニメキャラと人気声優の話ばかりだった。
「アイツはだめだね、あとアイツも下手、あのキャラはね──」
有名声優、人気声優でも石井さんの気に入らない声優はとことんこき下ろされた。正直うんざりだが、中年とはいえまだ初学の石井さんなら先走りも仕方ないと思い、私は適当なところで話を切り上げ、本題を投げた。
「声優になれなかったらどうしますか?」
石井さんは露骨に不機嫌な顔をして答えた。
「そりゃ学校のせいでしょ。その時は怒りますよ。高いお金払ってるんだし」
女性担当者をチラ見すると笑みを浮かべたまま、それはそれで怖い。私は続けた。
「そういうことじゃなくて、もしもの将来の話です。ずっと派遣も嫌でしょう」
癖なのか、口元を指で弾いてしばし考え込む石井さん。私が「そんな重く考えなくていいですよ」と促すと、石井さんは小声で語りだした。
「実は小説家でもあるんだ。ラノベはずっと書いてるしネットで発表したりしてる。そっちもやって、どっちかで売れればと思ってる」