パンフレットでも驚いたのだが、ここは通信教育で声優を養成するコースもある。もちろん一定期間通うスクーリングの制度はあるようだが、仮にも演技の学校である。独学で調べたりレポートを出すような通信制大学や資格の試験対策のための通信制予備校とはわけが違うように思うが、別にこのスクールに限らず声優の通信教育というのは存在する。取っ掛かりとしてはありかもしれない。
当然、10代20代の受講生が中心の取材となったが、学校側は遅くても声優になるチャンスはあるという話に持っていきたいらしく、石井さんも連れてきたというわけだ。
「やっぱ好きなことで生きないと。俺は子どものころからアニメが大好きだし、今も超オタク。あとお母さんも応援してくれるし」
同じ働くならば、好きなことを仕事にしようという風潮が強くなったのはいつからか。確かに、嫌でたまらない仕事を続けてストレス過多になるよりは、少しでも好きなことに近いほうが働きやすいかもしれないが、それも程度の問題だろう。とはいえ、どこまで好きを仕事にするため無理をするかは人それぞれの話になるのでいいかと話を切り上げようとしたが、最後の「お母さん」という言葉に彼の年齢を重ねてしまい、思わず「お母さん応援してるんですか!?」と聞き返してしまった。
「応援してくれてるよ。学費も出してくれたし、だから絶対声優にならなきゃ」
学費も!?と聞き返しかけたがそれはやめた。かなりの高額なので驚くしかないが、横の女性担当者の笑みが怖い。他にも石井さんくらいの年齢の学生がいると聞いたが、男性だけでなく女性もいると聞いてこれも愕然とした。女性に年齢は失礼だが、現実問題として新人女性声優でアラフォーデビューは聞いたことがない。劇団やアイドルを経てならともかく、アラフォーの女性が一から声優を目指すとなるとスーザン・ボイルどころではない。ましてや、新人女性声優は男性声優以上に「若さゆえの容姿」を求められるのが業界の現実だ。