また、歯を削る時に使用するハンドピースは、回転を停止した時に血液や唾液などが逆流する「サックバック現象」が起きることがある。患者が新型コロナウイルスに感染していた場合、そのまま次の患者にハンドピースを使用すれば、感染する可能性は高い。
ハンドピース内部には「逆流防止弁」がついているが、厚労省の研究班が5社のハンドピースの実験したところ、すべてのハンドピースで「サックバック現象」が確認された。そのため、厚労省の指針では「患者ごとにハンドピースの交換が望ましい」としているが、半数の歯科医はこの指針を無視していることが分かった。
厚労省の研究班として、東北大学の江草宏教授が2017年に行った調査では、「使用済みのハンドピースを患者毎に交換し、滅菌を行う」と答えた歯科医は、52%だったのである。実は2014年にも、国立感染研究所の研究員による調査が行われ、患者ごとにハンドピースを交換していた歯科医は約3割だった。つまり、7割が「使い回し」をしていたのである。
歯科治療における感染リスクは、血液、唾液などが付着する治療器具の全てにある。ハンドピース以外にも、根管治療に使うリーマーやファイル、エアタービンに装着するチップ(またはバー)、口中の水を吸い出すバキューム、歯石除去用のキュレット、スケーラーなど、種類は多い。
こうした治療器具は、高圧蒸気を使った「オートクレーブ」で滅菌処理をするように指針で定められているのだが、これも歯科医院で徹底されていない。取材した歯科医院の中には、器具をアルコールに浸しただけのところもあったし、ある歯科医によると、オートクレーブを用意していないクリニックもあるという。
予防歯科を中心にした小池歯科医院(神奈川・川崎市)では、治療器具を全てオートクレーブで滅菌処理しており、紙コップなどは使い捨てにしている。別掲の画像のように、治療器具が「滅菌パック」に入っていれば、オートクレーブで処理をしていると考えていいだろう。
歯科医が治療の時に装着している薄手のグローブにも注意が必要だ。患者ごとに交換せず使い回しをしているケースや、グローブを装着した状態で手洗いをしているケース。これは両方ともNGである。前者はいうまでもないし、厚労省の指針によると、グローブで手洗いしても微生物が除去されず残っていたり、小さな穴が空いていたりすることが確認されているのだ。
年齢が高い歯科医に多いのが、「繊細な治療だから素手で行う」というもの。しかし、手洗いはよほど入念に行わないと、汚れは落ちていない。