「すべての患者の血液、体液、分泌物などは感染する危険性があるものとして取り扱わなければならない」
これはアメリカのCDC(疾病管理予防センター)が提唱する「スタンダードプリコーション」という、感染予防の基本原則である。エイズ・パニックが起きた教訓から、この「スタンダードプリコーション」の概念が生まれたという。
今回、日本では、新型コロナウイルスに感染したことに気づかないまま多くの人に接触して、感染拡大を招いたケースがいくつも報告されている。歯科医院が感染拡大の温床となる可能性は十分にあるだろう。
では現代医療では常識の感染予防が、なぜ日本の歯科医院で実施されないのか?
歯科医の中には、保険の診療報酬の安さを主張する人もいる。だが、小池歯科医院の小池匠院長はこう指摘する。
「私は保険診療の範囲で、十分に感染予防はできると考えています。しかし、最新の高額な医療機器を導入した歯科医院は、多額の借金を背負うので、感染予防にコストをかけられないのでしょう」
これまで、歯科医院の感染予防は、ほとんど問題視されてこなかった。理由の一つは、感染症の多くに潜伏期間があるので、歯科治療が感染原因として特定されていなかったことがある。
新型コロナウイルスに関しては、世界中が過剰に反応している面もあるだろう。確かに、日本だけでクルーズ船乗客を含めて10人余りの死亡者が出ているが、毎年インフルエンザで2000人から3000人が死亡している現実もあるので、基礎疾患がある人や高齢者以外はそこまで怖がる必要はない。
とはいえ、歯科医院にかかるときは、感染予防を判断材料の一つに加えたほうが賢明だろう。
【プロフィール】いわさわ・みちひこ/1966年、北海道・札幌生まれ。ジャーナリスト、ドキュメンタリー作家。報道番組ディレクターとして救急医療、脳死臓器移植などのテーマを報道。「血液製剤のC型肝炎ウィルス混入」スクープで、新聞協会賞、米・ピーボディ賞。4月10日に新著『やってはいけない がん治療』(世界文化社)が発売予定。