スポーツ

「無観客競馬」は1番人気馬にとって追い風なのか

無観客で開催された中山競馬(2020年3月1日)

 無観客での競馬開催となっても馬券の売上がさほど落ちなかった、というところに競馬ファンの熱い思いは詰まっているようにも思える。競馬ライターの東田和美氏が無観客競馬と馬券の相関について考察した。

 * * *
 レース前に周回するパドックでは不躾な視線や無数のカメラに晒されることもなく、アナウンスや勇ましい行進曲とともに馬場入りしても、スタンドからは拍手も歓声も聞こえてこない。そんな状況は、レースに臨む馬にどんな変化をもたらすのだろうか・・・・「無観客競馬」と聞いて、最初に思ったのはそんなことだった。

 3月1日(日)の中山競馬場は、これ以上ないというような競馬日和だった。

 調教師と馬主関係者、片隅にある報道エリアに数人の競馬記者やカメラマンがいるだけのパドックを周回する馬は、ふだんと変わりがないように見える。どの馬も観客という存在に気を使うことなく落ち着いているのではないかとも思ったが、馬っ気を出していたり、尻っぱねを繰り返したりする馬もいる。厩務員に甘えている馬もいれば、ひんひん鳴いている馬もいる。

 いつもと同じ場内アナウンスで紹介され、返し馬に入ってからも普段と同じ。走り出すまでのルーティンをこなして入る馬や、馬場入りしてすぐ第1コーナーの方に向かう馬もいれば、やや口を割って抵抗するような馬もいた。無人のスタンドを見つめて茫然と立ち尽くすような馬などいない。

 スタートのファンファーレが聞こえても拍手は起きないし、ゴール前のたたき合いでも、騎手名を連呼する声は聞こえない。検量室前に戻ってきた騎手と厩舎スタッフが会話をする声が、かなり遠くにいても聞こえたが、確定して高配当が出てもどよめきはない。レースは文字通り粛々と消化されていった。

無観客での開催となった中山競馬場のパドック(2020年3月1日)

 レース後の騎手たちのコメントも、無人のパドックに出た時の静けさや、最後の直線で歓声が聞こえないことへの違和感こそあったが、レースに影響を及ぼすことはなかったというのが大半。しかし、メインの中山記念を勝った横山典騎手の「大勢のファンの前で勝ちたい」というコメントなどからは、勝った時の寂しさが感じられた。

 この日の中山競馬場では昼休みに「新人騎手紹介セレモニー」が行われた。この時点ですでに3人とも初騎乗を終えており、それぞれレースにおける経験不足、実力不足を口にしたが、一様に「緊張はしなかった」と語っていた。それは無観客ゆえだったのだろうか。

 2月29日、3月1日の「無観客競馬」でひとつ興味深いデータがあった。2日間全72レース中、1番人気馬がほぼ半数の35レースで勝っている。1番人気馬といえども、昨年1年間を通してみると、3回に1回勝つかどうか。昨年同時期(2月23、24日)は23勝、1週前の土日でも26勝。C・ルメール騎手でさえ、昨年1年間で1番人気馬に騎乗した時の勝率は.351なのだ。

 今回特にその差が顕著だったのは第3場という位置づけの中京。2日間で24レース中1番人気馬が半数を超える13勝。昨年同時期の小倉は2日間で1番人気馬はわずか3勝、2月23日などは全敗だった。1週前の今年の小倉開催も土日で5勝だけ。昨年3回行われた中京のローカル開催でも、1番人気馬の勝率は.310程度だった。

 ちなみにこの2日間、1番人気馬は連対率、3着内率でも、昨年同時期や1週前をわずかながら上回ったが、2番人気馬、3番人気馬の成績は、大きな違いがみられなかった。また払戻金については、特に堅く収まったとも言えず、馬連の万馬券や10万円以上をつけた3連単は昨年より多いぐらいだった。ただ、1番人気馬の半数は強い競馬を見せた。

馬券売り場もこの通り(中山競馬場=2020年3月1日)

関連キーワード

関連記事

トピックス

東京都慰霊堂を初めて訪問された天皇皇后両陛下と長女・愛子さま(2025年10月23日、撮影/JMPA)
《母娘の追悼ファッション》皇后雅子さまは“縦ライン”を意識したコーデ、愛子さまは丸みのあるアイテムでフェミニンに
NEWSポストセブン
2023年に結婚を発表したきゃりーぱみゅぱみゅと葉山奨之
「傍聴席にピンク髪に“だる着”姿で現れて…」きゃりーぱみゅぱみゅ(32)が法廷で見せていた“ファッションモンスター”としての気遣い
NEWSポストセブン
渡邊渚さんの最新インタビュー
渡邊渚さんが綴る「PTSDになった後に気づいたワーク・ライフ・バランスの大切さ」「トップの人間が価値観を他者に押しつけないで…」
NEWSポストセブン
女優の趣里とBE:FIRSTのメンバーRYOKI(右/インスタグラムより)
《趣里が待つ自宅に帰れない…》三山凌輝が「ネトフリ」出演で超大物らと長期ロケ「なぜこんなにいい役を?」の声も温かい眼差しで見守る水谷豊
NEWSポストセブン
ルーヴル美術館での世紀の強奪事件は瞬く間に世界を駆け巡った(Facebook、HPより)
《顔を隠した窃盗団4人組》ルーブル美術館から総額155億円を盗んだ“緊迫の4分間”と路上に転がっていた“1354個のダイヤ輝く王冠”、地元紙は「アルセーヌ・ルパンに触発されたのだろう」
NEWSポストセブン
活動休止状態が続いている米倉涼子
《自己肯定感が低いタイプ》米倉涼子、周囲が案じていた“イメージと異なる素顔”…「自分を追い込みすぎてしまう」
NEWSポストセブン
松田聖子のモノマネ第一人者・Seiko
《ステージ4の大腸がんで余命3か月宣告》松田聖子のものまねタレント・Seikoが明かした“がん治療の苦しみ”と“生きる希望” 感激した本家からの「言葉」
NEWSポストセブン
“ムッシュ”こと坂井宏行さんにインタビュー(時事通信フォト)
《僕が店を辞めたいわけじゃない》『料理の鉄人』フレンチの坂井宏行が明かした人気レストラン「ラ・ロシェル南青山」の閉店理由、12月末に26年の歴史に幕
NEWSポストセブン
森下千里衆院議員(共同通信社)
《四つん這いで腰を反らす女豹ポーズに定評》元グラドル・森下千里氏「政治家になりたいなんて聞いたことがない」実親も驚いた大胆転身エピソード【初の政務三役就任】
NEWSポストセブン
ナイフで切りつけられて亡くなったウクライナ出身の女性イリーナ・ザルツカさん(Instagramより)
《19年ぶりに“死刑復活”の兆し》「突然ナイフを取り出し、背後から喉元を複数回刺した」米・戦火から逃れたウクライナ女性(23)刺殺事件、トランプ大統領が極刑求める
NEWSポストセブン
『酒のツマミになる話』に出演する大悟(時事通信フォト)
『酒のツマミになる話』が急遽差し替え、千鳥・大悟の“ハロウィンコスプレ”にフジ幹部が「局の事情を鑑みて…」《放送直前に混乱》
NEWSポストセブン
『週刊文春』によって密会が報じられた、バレーボール男子日本代表・高橋藍と人気セクシー女優・河北彩伽(左/時事通信フォト、右/インスタグラムより)
「近いところから話が漏れたんじゃ…」バレー男子・高橋藍「本命交際」報道で本人が気にする“ほかの女性”との密会写真
NEWSポストセブン