「新型コロナの蔓延で、世間にはマスクをした人が溢れています。でも、中の様子は違う。受刑者はみんなマスクなしで生活しています。
刑務所では、警備や保安のため、原則的として受刑者にマスクをさせません。相手がどんなことを考えているのか、どんな気持ちでいるのか。表情から得られる情報は非常に重要です。マスクをすれば、日々受刑者と接する刑務官たちが彼らの表情を読み取ることができなくなる」
こうしたマスク着用の運用について、法務省矯正局の担当官は次のように語る。
「公式の取り決めがあるわけではないのですが、保安上の観点から、受刑者にはマスクを着用させない方がよいであろうというのは関係者の共通認識だと思います。ただ、毎年のことですが、インフルエンザが流行する冬季には、それぞれの施設の判断で必要と考えられる状況になれば、受刑者にもマスクを着用させるよう、促しています。今回の新型コロナウイルスについても同様です」
受刑者たちは外の世界で起きていることを知っている。一定程度の制限はあるが彼らはテレビ・ラジオを鑑賞することができるし、新聞・雑誌を読むこともできる。マスクの着用が感染防止に一定の効果があることも当然、知っているはずだ。
「高齢の受刑者のなかには“罹患したら重症化する可能性があるのに、マスクすら支給されない”と不安を訴える受刑者もいる。閉鎖された場所であるからこそ、受刑者の心にはストレスも溜まりやすい。いつ終息するか分かりませんが、今後は心のケアが必要になってくると思います」(前出・刑務官)
声を上げにくい彼らもウイルスの脅威と戦っている。