元東大医科学研究所特任教授で医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏が指摘する。
「さすがに、厚労省の通知文書ほどの爆発的な感染拡大に至ることは考えにくいが、これからも感染者はどんどん増えるでしょう。そうなると心配なのは、すでに“本来であれば検査や治療できたはずの患者”まで手が回らなくなっている現実があることです」
どういうことか。
「現在は症状がなくてもPCR検査が陽性で入院・隔離されている人がいる一方で、症状に苦しんでいるのに検査してもらえず、病院をたらい回しにされたり、自宅療養を強いられている人がいる。その理由は、厚労省が“感染ルートの特定”を優先しているからです。感染の疑いが強く症状が出ている患者の検査よりも、症状がない濃厚接触者の検査が優先されている。
感染初期の水際作戦の段階であれば、接触者を丹念に辿ることに意味があるが、蔓延期にそのやり方では患者が必要な治療を受けられない。方針を切り替えて重症者の対応を優先すべきだが、そうなっていない」
このままでは、感染の爆発がなかったとしても“病院難民”が発生する懸念もあるという。
「原因は病院の閉鎖や休業です。新型コロナ感染を警戒してか、全国的に1月から外来患者が減りはじめており、保険診療の収入は2か月遅れで入るため、3月から経営危機が表面化する病院が増えてくると考えられる。休業や外来中止に追い込まれると、本来は日本が備えていた医療機能が低下し、コロナ患者も他の疾患の患者も治療の機会が失われてしまう」(同前)
※週刊ポスト2020年4月3日号