大菩薩峠事件も69年に起きた(時事通信フォト)
伝説の討論会は「他者とは何か」という議題からスタートし、「時間と空間」、「事物と言葉」など難解な議論が続く。そして「東大全共闘最強の論客」と称された芥正彦が登場。「三島さんは敗退してしまった人だ」と挑発すると、討論はさらに白熱した。
「あなたは日本人であるという限界を超えることができない。だから歴史にやられてしまった」
芥がこう迫ると、三島は即座に答える。
「できなくていいのだよ。僕は日本人であって、日本人として生まれ、日本人として死んで、それでいいのだ」
三島は学生の挑発に冷静さを失わず、20歳以上も歳の離れた若者たちに何度も「諸君は」と諭すように語りかけた。
観念的なやり取りに苛立った学生が「俺は三島をぶん殴る会があるというから来たんだ!」と壇上に駆け上がり、芥らと一触即発になるが、三島は慌てず、ただ愉快そうに笑うだけだった。討論の最中、三島からは全共闘を評価する言葉も飛び出した。
「知識人の鼻っ柱をへし折ったという点では、諸君らの功績は確実に認める」
「諸君が天皇を天皇だと一言言ってくれれば、俺は喜んで諸君と手をつなぐだろう」
三島が自衛隊市ヶ谷駐屯所で割腹自殺をする1年前の出来事である。
◆「戦後などくだらない」