『律蔵』の条文にはこれらの本文に加えて、条文がさだめられるに至ったいきさつの話、つまり「因縁話」がつけられるのが普通ですが、そこには獣姦の禁止対象として猿などの動物、屍姦の禁止対象としては女性の死体のほかに死んだ馬までがあげられ、ほとんどの場合、それらと交わった修行者の名前をまじえて、これでもかと語られるのがきまりになっています。
仏典とは仏教に由来する情報を伝えるために編まれた書物です。ただ、『律蔵』は教団に出家した修行者、すなわち僧侶の生活規則を定めたもので、あくまで教団内部の関係者を想定して書かれています。
わたしたち一般の人間が接する仏典は、お葬式などの儀式(法要)で読まれる経典です。「色即是空」の文句で知られる『般若心経』などが代表格ですが、仏教の教えがもつ「清らかな」イメージはここからくるものです。
『律蔵』の中味はふだんはわたしたちの目にとまらず、当然、なじみのないものになります。しかし、この「エログロ」エピソード満載の生活規則集、『律蔵』こそが仏教の真実、ありのままの姿を伝える第一級の資料なのです。
●平野純・著『怖い仏教』(小学館新書)を一部抜粋のうえ再構成