つまり、私たちはあいまいな基準をもとに「要精密検査」という通知を受け取って、生活習慣の改善にいそしんだり、場合によっては病院に行って治療を受けたりしているというわけだ。
基準値に対し、異論を唱える専門家はほかにもいる。新潟大学名誉教授で医師の岡田正彦さんもこんな意見だ。
「そもそも、いまの基準値は男女で分けられてはいるものの、高齢者も若者も同じ数値。血圧やコレステロール値などは年齢を重ねれば上昇するのが自然なのです。
20才の若者と80才の老人が同じ基準でいいはずがありません。いまの基準値にはそうしたことが一切考慮されていない。数値だけで区切ることで、さまざまな問題が出ると考えています」
そもそも基準値とは20~60才くらいまでの健康な人の検査成績をもとに、上限と下限を除外したもの。年齢がごちゃまぜになってしまっているのだ。大櫛さんが話す。
「そこで私たちのチームは、全国の健診実施期間から集めた約70万人の健康診断受診者を分析し、アメリカで標準的に使われる方法に準拠して“本当の基準”を算出しました。幅広い年齢層の受診者の膨大なデータを解析したことで、男女差はもちろん、年齢によって健康とされる数値が異なることを明らかにしました。
その結果、日本の基準では再検査や異常とされていた人たちの多くが『健康』の範囲に入ったのです。つまり、治療不要の人が薬をのまされていたことになる」
それでは気をつけるべき「本当の基準値」とは具体的にどのくらいなのか。「血圧」と「コレステロール値」について検証する。
◆血圧
国内での現在の血圧の正常値は「上が130mmHg未満、下が85mmHg未満」と定められている。しかし実は年齢が高くなるごとに血圧も上がっていくのは当たり前だと岡田さんは言う。
「高齢になると血管のしなやかさが失われ、硬くなります。血液は心臓だけでなく、血管自体の収縮も加わることで全身に送られていますが、硬くなった血管ではそれが難しくなる。特に、心臓より遠くにある脳は一定の血液を必要とします。
だから、体は血圧を上昇させ、血液を力強く送り出すようになるのです。高齢者の血圧が高いのは当然のことなのです」