中野:そうですね。この言葉をよく使う人は「受容・共感」の能力が心許なくなってきている場合が多いようです。
技術の進歩で交通・通信手段も便利になり、医療技術も格段に発達した現在は、客観的に見て昔よりも圧倒的に人間が生き延びやすく、住み良くなっているはずです。にもかかわらず「昔がいい」と無条件に決めつけてしまうのは、自分が現代社会に適応・共感できていないと認めてしまっているのと同じです。
佐々木:脳科学者の視点から見て、相手に寄り添う思考法は年を取ってからでも身につくものですか?
中野:もちろん若い頃に比べれば時間はかかりますが、日々の生活の心がけで少しずつ鍛えることができます。
ポイントは、前頭前野に刺激を与えるために「いつもの行動」に変化を与えること。自宅から駅までをいつもと違うルートで歩いたり、いつもなら読まないような本を手に取ったりするのもいいですね。普段の自分なら気にとめないようなことを意識するのが大事です。
佐々木:私は今回の著作で、相手の視点に立って考える能力を鍛えるトレーニング法をいくつか紹介しています。観察力を養うために「発見ノートを毎日つける」というのもあるんですが、これはまさに中野先生の仰る「いつもの行動に変化を与えること」につながりますね。
僕が日常生活で意識的に行なっているのは、レストランなどで「火事になったらどこから逃げるか」を想像すること。裏口を確認して、逃げやすい動線をチェックします。