ライフ

認知症母の「人型に凹んだせんべい布団」に目を背けた娘の思い

布団乾燥機で温めた布団に認知症の母が「太陽のにおい」と…

 父が急死したことで、認知症の母(85才)を支える立場となった女性セブンのN記者(56才・女性)が、介護の裏側を綴る。今回は寝具の重要性についてだ。

 * * *
 若い頃はまめに布団を干し、フカフカな寝床で家族を喜ばせていた母。認知症で独居が難しくなったときには薄汚れたせんべい布団で寝ていて、昔が懐かしく悲しかった。母の安眠を守るべく、布団乾燥機を導入した。

◆薄汚れた母の布団に思わず目を背けた

 母の認知症が進み、父と暮らした家が荒れ果て、命の危険も感じたため、いまのサ高住に転居させたのは6年前。

「家族が仕事や学校から帰って来たらホッとするように」と、掃除や洗濯などを丁寧にするのが若い頃の母の信条だった。それを思うと、散らかって汚れ放題の部屋に呆然と座り込んでいる姿を見るのはつらかった。私もつい怒鳴ってしまい、悲しいバトルを繰り返していたのだ。

 特につらかったのは、引っ越し直前に母の寝室を片づけたときだ。親子とはいえ別々に暮らして25年以上。寝室にはなかなか踏み込めなかった。引っ越しの荷物をまとめるために意を決して中に入ると、やはり荒れ放題。服や本、新聞、チラシが散乱し、ベッドはその中に埋もれていた。

 掛け布団をめくると白いシーツが薄汚れていて、ところどころ擦り切れてもいた。きっと布団干しもシーツの洗濯も全然できていなかったのだろう。せんべい布団が人型に凹んでいるようにも見え、思わず目を背けた。すると記憶が半世紀前にさかのぼった。

 日当たりのいい団地の5階、晴天の日には必ず、母はベランダの柵いっぱいに家族の布団を干した。陽が傾く頃、取り込んだ布団のフカフカしたところにダイブしてにおいをかぐのが大好きだった。

「太陽のにおいだよ」と、母が言うので子供心に信じていた。柔軟剤の香りとは違う、人の温もりを感じる快いにおいだ。

 温かな思い出とは裏腹の、目の前のせんべい布団。毎晩、あの凹みに老いた体をうずめて寝ていたのかと思うと、泣きたくなるほど腹が立った。

「この布団捨てるからね!」と言い捨て、私は即、ネット通販で布団セットを注文した。

◆布団乾燥機で温かな香りに 宅配クリーニングも活用中

関連キーワード

関連記事

トピックス

全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる
JR東日本はクマとの衝突で71件の輸送障害 保線作業員はクマ撃退スプレーを携行、出没状況を踏まえて忌避剤を散布 貨物列車と衝突すれば首都圏の生活に大きな影響出るか
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
(写真/イメージマート)
《全国で被害多発》クマ騒動とコロナ騒動の共通点 “新しい恐怖”にどう立ち向かえばいいのか【石原壮一郎氏が解説】
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
”クマ研究の権威”である坪田敏男教授がインタビューに答えた
ことし“冬眠しないクマ”は増えるのか? 熊研究の権威・坪田敏男教授が語る“リアルなクマ分析”「エサが足りずイライラ状態になっている」
NEWSポストセブン
“ポケットイン”で話題になった劉勁松アジア局長(時事通信フォト)
“両手ポケットイン”中国外交官が「ニコニコ笑顔」で「握手のため自ら手を差し伸べた」“意外な相手”とは【日中局長会議の動画がアジアで波紋】
NEWSポストセブン
11月10日、金屏風の前で婚約会見を行った歌舞伎俳優の中村橋之助と元乃木坂46で女優の能條愛未
《中村橋之助&能條愛未が歌舞伎界で12年9か月ぶりの金屏風会見》三田寛子、藤原紀香、前田愛…一家を支える完璧で最強な“梨園の妻”たち
女性セブン
土曜プレミアムで放送される映画『テルマエ・ロマエ』
《一連の騒動の影響は?》フジテレビ特番枠『土曜プレミアム』に異変 かつての映画枠『ゴールデン洋画劇場』に回帰か、それとも苦渋の選択か 
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン
ラオスを公式訪問されている天皇皇后両陛下の長女・愛子さまラオス訪問(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《何もかもが美しく素晴らしい》愛子さま、ラオスでの晩餐会で魅せた着物姿に上がる絶賛の声 「菊」「橘」など縁起の良い柄で示された“親善”のお気持ち
NEWSポストセブン