◆罰は免れても心は偽れない

 第1章では事件発生から収監、2章では刑期を終えた翔太が派遣で働き、生活を立て直すまで。そして3章では晴れて介護士の資格を取り、綾香とも新たな関係を築き始めた彼を待ち受ける数々の落とし穴と出会いが、翔太や綾香、二三久や長男〈昌輝〉の視点で描かれる。特に注目すべきは、探偵事務所に翔太の消息を調べさせた二三久の、出所後の翔太との関わり方だ。

 なぜか裁判を一度も傍聴しようとせず、同居を持ち掛けても〈やらなければならないことがあるんだ〉と言って実家に残った父のことが、名古屋で妻子と暮らす昌輝は心配でならない。だが当の二三久は、彼を慕う元後輩教師〈永岡〉の協力を得て、翔太が住む北本市内の安アパートに部屋を借りる。そして偽名を使って翔太や綾香と近所づきあいを始めるのだ。

 だが、事件当時84歳だった二三久も今や89歳。探偵事務所に毎週、翔太のことを報告するよう頼んだものの、日に日に記憶が薄れていく状態だ。それでも忘れたくないことはペンで座卓に直接書きつけ、翔太たちと関わり続ける彼の、果たして「やるべきこと」とは?

 さて翔太が罪と向き合う過程で大きな役割を担うのが、1つは父・敬之の手紙、もう1つが二三久の存在だ。面会や裁判にも顔を見せず、母親と離婚後、最期は酒に溺れて死んだという父親を、翔太は〈アクリル板越しでいいから、父に会いたい〉と思うほど慕い、同じ大学を志すほど尊敬もしていた。

「全く違う道に進みながら、社会人、家庭人として父を心底尊敬する私に、そこは結構近いかもしれません」

 その父が残した手紙を読む勇気が出ずにいる翔太が、被害者の遺族と知らずに二三久に出会い父への思いを吐露するシーン。また翔太が被害者の〈亡霊〉に悩まされていることを告白するシーン。さらには、ある人物が、愛する者を失う度に後悔を募らせるシーンなどからは、人は人との間にこそ償いや赦しを見出せる存在であってほしいという、著者の祈りすら感じさせる。

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