「自分の罪を本当に認め、悔い改められるかどうかは、自分自身の人間性が問われるのはもちろんのこと、誰と接し、どんな関係を築くかにもよると思います。
例えば森友問題で文書改竄を命じた人たちも、このままだんまりを決め込めば訴追は免れるかもしれない。でも何か不幸なことがある度に『あの時の報いだ』と思うなど、何らか自分に返ってくる感情はあるはずです。そういう、司法で贖えない罪のことを今作では書きたかったです。翔太が亡霊に苦しむということはまだ救われる余地はあります。自分の心を偽れないのは、心をまだ持っているという証拠ですから」
彼が人間に戻れるかどうかの瀬戸際に二三久や綾香がいて、亡き父の手紙まであったことに感謝したくなる。〈亡くなった人には何も伝えられない〉からこそ、今を偽らず、また逃げずに生きたいと思わせる、苦くて優しくて真っ直ぐな小説だ。
【プロフィール】やくまる・がく/1969年兵庫県生まれ。駒澤大学高校卒業後、劇団員、旅行会社勤務を経て、2005年『天使のナイフ』で第51回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。2016年『Aではない君と』で第37回吉川英治文学新人賞、2017年「黄昏」で第70回日本推理作家協会賞短編部門を受賞。著書は他に刑事・夏目信人シリーズ(『刑事のまなざし』『その鏡は嘘をつく』等)や、『闇の底』『虚夢』『悪党』『死命』『友罪』『神の子』『蒼色の大地』等。178cm、58kg、O型。
●構成/橋本紀子 ●撮影/田中麻以
※週刊ポスト2020年5月8・15日号