「自分の罪を本当に認め、悔い改められるかどうかは、自分自身の人間性が問われるのはもちろんのこと、誰と接し、どんな関係を築くかにもよると思います。

 例えば森友問題で文書改竄を命じた人たちも、このままだんまりを決め込めば訴追は免れるかもしれない。でも何か不幸なことがある度に『あの時の報いだ』と思うなど、何らか自分に返ってくる感情はあるはずです。そういう、司法で贖えない罪のことを今作では書きたかったです。翔太が亡霊に苦しむということはまだ救われる余地はあります。自分の心を偽れないのは、心をまだ持っているという証拠ですから」

 彼が人間に戻れるかどうかの瀬戸際に二三久や綾香がいて、亡き父の手紙まであったことに感謝したくなる。〈亡くなった人には何も伝えられない〉からこそ、今を偽らず、また逃げずに生きたいと思わせる、苦くて優しくて真っ直ぐな小説だ。

【プロフィール】やくまる・がく/1969年兵庫県生まれ。駒澤大学高校卒業後、劇団員、旅行会社勤務を経て、2005年『天使のナイフ』で第51回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。2016年『Aではない君と』で第37回吉川英治文学新人賞、2017年「黄昏」で第70回日本推理作家協会賞短編部門を受賞。著書は他に刑事・夏目信人シリーズ(『刑事のまなざし』『その鏡は嘘をつく』等)や、『闇の底』『虚夢』『悪党』『死命』『友罪』『神の子』『蒼色の大地』等。178cm、58kg、O型。

●構成/橋本紀子 ●撮影/田中麻以

※週刊ポスト2020年5月8・15日号

関連記事

トピックス

結婚生活に終わりを告げた羽生結弦(SNSより)
【全文公開】羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんが地元ローカル番組に生出演 “結婚していた3か間”については口を閉ざすも、再出演は快諾
女性セブン
「二時間だけのバカンス」のMV監督は椎名のパートナー
「ヒカルちゃん、ずりぃよ」宇多田ヒカルと椎名林檎がテレビ初共演 同期デビューでプライベートでも深いつきあいの歌姫2人の交友録
女性セブン
NHK中川安奈アナウンサー(本人のインスタグラムより)
《広島局に突如登場》“けしからんインスタ”の中川安奈アナ、写真投稿に異変 社員からは「どうしたの?」の声
NEWSポストセブン
コーチェラの出演を終え、「すごく刺激なりました。最高でした!」とコメントした平野
コーチェラ出演のNumber_i、現地音楽関係者は驚きの称賛で「世界進出は思ったより早く進む」の声 ロスの空港では大勢のファンに神対応も
女性セブン
文房具店「Paper Plant」内で取材を受けてくれたフリーディアさん
《タレント・元こずえ鈴が華麗なる転身》LA在住「ドジャー・スタジアム」近隣でショップ経営「大谷選手の入団後はお客さんがたくさん来るようになりました」
NEWSポストセブン
元通訳の水谷氏には追起訴の可能性も出てきた
【明らかになった水原一平容疑者の手口】大谷翔平の口座を第三者の目が及ばないように工作か 仲介した仕事でのピンハネ疑惑も
女性セブン
歌う中森明菜
《独占告白》中森明菜と“36年絶縁”の実兄が語る「家族断絶」とエール、「いまこそ伝えたいことが山ほどある」
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
5月31日付でJTマーヴェラスから退部となった吉原知子監督(時事通信フォト)
《女子バレー元日本代表主将が電撃退部の真相》「Vリーグ優勝5回」の功労者が「監督クビ」の背景と今後の去就
NEWSポストセブン