「さすが大・渡辺プロです。コント55号、てんぷくトリオ、トリオ・スカイライン、エノケン師匠に由利徹さん。錚々たるコメディアンを束ねる司会で、もう舞い上がっちゃって。支離滅裂。同じことを二度も三度も言うようになってしまって。
慣れていないし、力はない。経験は浅い。引き出しが少ない。そんなことが自分でも分かって、ボロボロになりました。スタッフたちも一生懸命に助けてやろうとしてくれたけど、結果的に打ち切りになったんです。
ズタボロになって植木のところへ訪ねて『うまくいきませんでした。すみません』と言ったら、ニコッと笑ったような顔をしていました。それで肩をポンと叩いて『まあ、焦りなさんな、ということなんだろう。だけどいいなあ。お前は酒飲めるから。一日のお終いにビールをキューっと飲んで、よし明日から頑張ろうと一日のけじめをつけられる。俺は飲めないから、一日のけじめが饅頭だよ。饅頭でお茶飲んで“よーし、頑張ろう”じゃないよな。お前、飲めるんだろ。なら、飲んでパーッと忘れちゃえ。俺より楽しみがあって、素晴らしいじゃないか』って。
その言葉で、生き返ったような気がしましたよ。それで、一発目は無残な結果に終わりましたが、そこから立ち直って、週のレギュラーが六本ですよ。
植木等がある時、あまりの忙しさに『俺を殺す気か!』と言ってたけど、今度は私がそうなっちゃった」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中
■撮影/片野田斉
※週刊ポスト2020年5月8・15日号