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ソロキャンパー・ヒロシは「トランジション理論」のお手本

”密”を避けるのにソロキャンプは最適?

”密”を避けるのにソロキャンプは最適?

 臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々の心理状態を分析する。今回は、ソロキャンプブームの火付け役となった芸人ヒロシの転機について。

 * * *
 ソロキャンパーのヒロシに注目が集まっている。キャンプの様子を動画配信している「ヒロシちゃんねる」の登録者数は、すでに67万人だ。

 ヒロシと聞いてもピンとこない人もいるだろう。ここ何年も彼の姿をテレビで見ることはなかったからだ。でもそれが「ヒロシです…」という自虐ネタで大ブレークした芸人ヒロシと聞けば、「あぁ、あのヒロシね」と思い出す人も多いのではないだろうか。そのヒロシは今、ソロキャンプの世界で“先生”と呼ばれるまでになっている。

 ソロキャンプとはその名の通りソロでキャンプをすること。一人でキャンプに行き、焚火をしてご飯を作り、一人を楽しむ。昔から一人が好きだったというヒロシは一世を風靡しテレビに引っ張りだこになっていた時でさえ、一人ぼっちの印象が抜けない芸人だった。

 毎日、顔を見ない日はないくらい売れているのに、なぜかテレビの世界になじめていない、水が合わない、そんな感じを漂わせていた。だからなのか、思い出すのは困ったような寂しそうな表情か、照れたような小さな笑顔しかない。人気がなくなり、売れなくなってテレビから姿を消す人は多いが、ヒロシは自分から遠ざかったのだという。その理由をあるインタビューで「テレビの世界に、違和感があったから」と答えている。自分自身が一番感じていたのだ。

 だが4月29日放送の『徹子の部屋』(テレビ朝日系)にゲスト出演し、趣味であるソロキャンプの魅力を熱く語ったヒロシは、まるで別人のようだった。黒柳徹子さんの前でキャンプの様子を再現しながら、目を輝かせ明るくにこやかな笑みを顔中に浮かべ、その楽しさと楽しみ方を伝えていた。

 そこには以前のような“ぼっち”のヒロシはいなかった。彼は転機をうまく乗り越えたのだ。キャリアの発達における「トランジション理論」のお手本みたいに。トランジション理論はいくつかあるが、人材系コンサルタントのウィリアム・ブリッジズが提唱した理論は、人生における転機を3つのステップに分けている。“何かを終わらせる段階”“ニュートラルな段階”そして“何かを探し、始まる段階”だ。ヒロシもテレビの世界を去り、事務所を辞め、過去の自分と未来の自分の間で揺れながら、新しい転機をソロキャンプに見出したのだ。

 インターネット上のスラングに「ソロ充」という言葉がある。ヒロシはまさにソロ充だ。朝日新聞出版発行の『知恵蔵』出典の「コトバンク」によると、ソロ充の定義は「一人で楽しめること」。孤独感を感じさせる“ぼっち”との違いは、本人が一人でいることに充実しているかどうか。いくつかのパターンがあるらしいが、いずれもソロである自分を肯定しているのだという。「コトバンク」では、友人を誘うのが面倒、人といると気を使う、相手のペースに合わせるのがつらい、などのタイプの人が自由気ままに一人で過ごすことを指す言葉だとも書かれている。インタビューで語られていたヒロシがソロキャンプを始めた理由と同じだ。

 寂しげでネガティブなムードはすっかり影を潜め、ヒロシはポジティブに、ソロだからこその楽しさを満喫している。だからこそ彼のソロキャンプの映像に癒され、引きこまれ、そこから一人でいることの良さ、楽しさを感じ取る人々が増えているのだろう。トランジション理論のごとく、“ぼっち”から“ソロ充”に変化したヒロシ。自粛自粛のこんな状況だからこそ、一人の楽しみ方をどんどん伝えていってほしい。

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