波瑠はNHK朝ドラ『あさが来た』でもヒロインを演じた
台北―高雄に敷設される新幹線という「路」、日本と台湾との戦時をはさんだ歴史と葛藤の「路」、日本へと引き揚げた湾生たちの「路」。新幹線整備士になりたいと意欲満々の台湾青年の「路」、あるいは大震災の時に真っ先に助けてくれた台湾と日本の友情の「路」。幾筋も描かれていく「路」が小説の世界を豊かに編み上げていきます。
特に第二次世界大戦時、日本の統治下にあった台湾から、敗戦を機に日本へ引揚げた人が50万人近くいて「湾生」は約20万人にのぼることを初めて知りました。そうした人々の中には今も台湾を「故郷」と感じている人がいる。風化しつつある歴史の筋道を浮き彫りにする小説のテーマに、心が揺さぶられました。
それに対してドラマ(第1話)を見ると、恋愛話に寄せすぎではないかという心配も湧いてきます。例えば、台湾に駐在した春香に繁之が突如「だれか男がいるのか?」と問うシーンがありましたが、粗雑すぎる言葉に興ざめ。「男がいるのか」って、そんな風に聞くでしょうか。あまりに恋人を信じていないゲスな問い方。そんなガサツな雰囲気は、原作にみじんもなかったような? そもそも春香と繁之の関係性は小説の中でもっと複雑で繊細だったのですが。
吉田氏は小説のねらいについて「昭和前期から平成の現在まで続く、時間の長さや奥行きも描きたかったんです。ひとりひとりの個人を深く掘り下げて書いていくことで、国の関係、時代も透けて見えてくるような小説にしたいと思いました」(文藝春秋booksサイト)とインタビューで語っていました。まさに幾筋もの路が交錯するところに浮かび上がる世界を構築することを目指していたようです。
もしも今回のドラマが「恋愛」という一つの筋に矮小化されてしまうとすれば、実にもったいない。費用をかけて大々的に海外ロケを敢行し、日台共同制作として双方のスタッフが協力し合い台湾でも放送されるドラマ。どうか幾筋もの「路」がくっきりと浮かび上がるようにと祈りつつ、今後の展開を見守ります。