東京五輪の延期決定後、ウーバーイーツのアルバイトを始めた三宅涼選手(写真/本人提供)

「最初に驚いたのちに、喪失感と不安感が湧いてきました。『いままでやってきたことはどうなってしまうのか』『1年後の自分はどうなるんだろう』と心に暗雲がどんどん立ちこめてくる。4年に1度、当たり前にやってくると思っていた大会が心の準備もないまま、いきなり消えてしまうことは、恐ろしいくらいの喪失感です。同じくらいの時期に志村けんさんが亡くなりましたが、そのときと同じような、絶対に失わないだろうと思っていたものがなくなってしまう苦しさを味わいました」(三宅選手)

 東京五輪で追加種目となった空手の男子組手75kg級代表が確定し、「空手界のプリンス」として活躍を期待される西村拳選手(24才)も延期決定に動揺を隠せなかった。

「今年に入って最初の頃は選手の間で『なんだか変なウイルスが流行っているらしいぞ』と話していましたが、こんなふうになるとは、思ってもみなかった。まだ、どこか甘くみていたというか…ですがそこから感染が爆発的に世界中に広がって、『もしかしたら東京五輪がなくなるんじゃないか』と恐しさが徐々に増していきました。これまでの4年間は、2020年の夏に行われる試合のためだけに費やしてきたので、延期と言われた瞬間は、正直言ってショックでしたし、動揺しています」(西村選手)

 選手たちの心にさらなる暗い影を落とすのが「再選考」問題だ。延期決定時、東京五輪の内定選手は出場選手全体の57%に及んだ。1年延期に際しては、あらためて選考会を開いて代表選手を選び直してみてはとの意見もみられる。

「すでに内定を出したのだから再選考はアンフェアとの声がある一方、1年後に世界で勝てる人を選び直した方がいいとの意見もある。こればかりは考え方次第。選手は競技種目の統括団体ごとの方針に従うしかありません」(玉木さん)

 だが、血のにじむ努力で東京五輪の切符をつかみ取った選手にとっては再選考などたまったものではない。男女14階級のうち13階級で代表が決まっていた日本のお家芸・柔道は、すったもんだの末に内定が維持されることが決まった。

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