こしらは30分以上に及ぶ時事マクラから『明烏』へ。ファンタジーの世界に生き、自らを「風の属性の勇者」と信じる時次郎を吉原へ導くために父が創作したストーリーは、「邪悪な力から世界を護るため、源兵衛と太助と共に伝説の巫女を探しに伝説の地アレフガルド(=吉原)を目指す」というもの。源兵衛と太助は「火の属性を持つ者」と「不浄なる者」だと時次郎は勝手に納得、勇者が世界を救う設定におばさんも花魁も見事に対応する。

 結局そこが吉原だと気づいた時次郎は「世界を救えない!」と泣き叫ぶが、翌朝は性に目覚めて大満足。ひたすらバカバカしい爆笑編だ。

 こしらが高座にかしめを呼び寄せて「昇進の報告」トークを繰り広げた後、トリのかしめがあえて『転失気』を披露。極端な改作ではなく、珍念の内面に踏み込むことで、ありふれた前座噺に新鮮な魅力を与えた。この方向性は面白い。かしめにとって大きな武器になりそうだ。

 なお4月15日、かしめは無観客の国立演芸場から昇進披露口上を無料配信。三遊亭遊雀、三遊亭兼好、春風亭一之輔らが口上を述べ、爆笑のうちに門出を祝ってもらった。

●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。

※週刊ポスト2020年6月12・19日号

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