税金や年金もスマホ一つで管理できるし、運転免許証やパスポートもスマホに入れて持ち歩ける。運転免許証と医療保険を海外でも自動翻訳を使って利用できるようにすれば、有効期間が1年しかない国際運転免許証や割高な海外旅行保険は不要になる。
選挙の投票もスマホで行なえば投票率が上がり、現在の膨大なコスト(衆院選で約600億円)を劇的に削減できる上、世界中どこにいても投票可能になる。秘密の漏洩や不正投票を危惧する意見もあるが、投票所に行く場合もそのリスクはあるし、スマホによる電子投票は指紋や顔などの生体認証とパスワードを組み合わせることでセキュリティを十分担保できる。
今の日本の行政がお粗末なのは、行政サービスのメニューが役所別の“縦割り縄のれん”で細分化され、バラバラになっているからだ。この状態を根本的に改善するためには、役所と自治体を前提にするのではなく、国と個人の関係を定めた日本国憲法に立ち返り、一元化した国民データベースを構築するしかないのである。
今回の新型コロナ禍で、「家」や「世帯」という古い枠組みに基づいたマイナンバーシステムが今の時代にそぐわないことはよくわかったはずである。これを造り直すのであれば、その根本的な欠陥を直さなければ意味がない。「消えた年金」を修正する作業にも、使い物にならない住基ネットとマイナンバー制度の構築と維持のために、すでに数兆円もの税金が消えている。これ以上、途方もない無駄遣いを繰り返さないためにも、今度こそゼロベースで世界標準の国民データベースを構築すべきなのである。
●おおまえ・けんいち/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊は小学館新書『経済を読む力「2020年代」を生き抜く新常識』。ほかに『日本の論点』シリーズ等、著書多数。
※週刊ポスト2020年6月26日号