店主が自分の死後や経営を辞めた後に「店を譲る」との趣旨であれば、店主死亡で「譲る」効果が発生します。ただし、店主が経営継続の予定であった場合に通常決められる条件がない文書は、将来「店を譲る」ことを考える趣旨に止まり、贈与契約とまではいえないと解されるかも。まずは店主とのやり取りを思い出し、どこまでの権利を贈与されたといえるかの検討をすることが大切です。
なんにせよ、文書による贈与は解除できません。贈与と解される場合には、店主の相続人である長男は「店を譲る」という店主の約束を、店主に代わって実行する義務があります。
もっとも相続財産の程度によっては、贈与された権利に関し、長男の遺留分(法定相続分の半分)に相当する金銭支払いを求められる可能性もあります。長男に店主の遺志を説明して交渉し、納得できる結論が出なければ、当該文書が作成された経緯を整理した上で、弁護士に相談してみてください。
【弁護士プロフィール】竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2020年7月10・17日号