で、「あ、いま、バスの中だから」と言うから、すぐに切ると思うじゃない。ところが、「うんうん、そう、そうなのよ。いま帰るところ」と言いつつ、切らない。「わかった。家に着いたら電話するけど、うん」とまだ切らない。「あはは、それで?」って、だんだん切る気配すらなくなってきた。

 バスの中は私と彼女のほかは、女子中学生が2人と勤め人らしき男女が4、5人。みんな“師匠”の声を否応なく聞かされているわけよね。と思ったら私、「19、20才じゃないんだからさぁ。いい加減にしてよッ」と、吸い込んだ息を吐いたと同時に、口に出して言っちゃった。

 そのとき、「あ、すみません」と言われれば、それで終わったのよ。でも、“師匠”が謝ったのは私にではなく、携帯で話していた相手に対して。それにしても、「ごめん、ごめん。怒られちゃったから、またね」はないって!

 思わず私は、「バスの中の通話はマナー違反ってこと、着物着ると忘れるのかしら」と、言わなくてもいいことをまた口に出してしまった。もちろん“師匠”はプイと横を向いたまま、終点で降りるまで窓の外を見っ放し。口を真一文字に結んだまま開かなかった。

「日本文化の象徴である着物を着ながら、そんな無様なことをしていいと思っているワケ? 高級カフェで飛沫を飛ばして雰囲気をぶち壊すのも許せないって」

 後日、ひと回り年下で介護職をしている女友達のS子相手に、そう怒りをぶちまけた。すると、「あはは。ああ、おかしい」と笑われたの。ムッとしてワケを聞くと、「だってどっちもどっちじゃん。年寄りって、“しまった”と思うと謝らないよ。あと、自分は正しいと意味づけて怒るのも年寄りだよ」だって。

 それだけじゃない。S子いわく、事実を自分の都合のいいようにネジ曲げて記憶するとか、問い詰められると話をはぐらかすとか…他人の立場は考えずに、自分の気持ちや都合だけ主張するのも年寄りの特徴なんだって。

 コロナの第2波は怖いけれど、コロナが明けたとき、たちの悪い年寄りが世の中にあふれ、自分もそうなっていたら…。そうならないために、若い人の話をよく聞き、わが身を振り返る真摯さを持ち続けたいと思うけど、できるかなぁ。

※女性セブン2020年7月23日号

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