国内

「二・二六事件」85年目の夏 渋谷に建つ慰霊像の不思議

渋谷の道端に建つ慰霊像。二・二六事件のすべての死者に祈りを捧げる

 東京・渋谷──。センター街を通り抜け、井の頭通りを代々木方面へと向かう。NHKセンター下の交差点を右に曲がり、ゆるやかな坂を上りきった右側に、一体の観音像がひっそりとたたずんでいる。すぐ横の小路(無国籍通り)は渋谷駅への近道になっているせいか、ふだんから人通りの多い場所だが、この像に足を止める人はほとんどいない。

 献花台の脇に建てられた木標には、こう墨書されている。

「二・二六事件慰霊像」

 今から84年前の昭和11(1936)年2月26日に起きた、陸軍青年将校らによる“史上最大のクーデター未遂事件”──二・二六事件。その慰霊像が、なぜこの場所にあるのか? その理由は、側面に嵌め込まれた碑文に刻まれている。

〈昭和維新の企図壊もて首謀者中、野中[四郎]、河野[寿]両大尉は自決、香田[清貞]、安藤[輝三]大尉以下十九名は軍法会議の判決により東京陸軍刑務所に於て刑死した。此の地は其の陸軍刑務所跡の一隅であり、刑死した十九名と是れに先立つ永田事件の相澤三郎中佐が刑死した処刑場跡の一角である〉([ ]内は引用者注。以下同)

 かつてこの地には陸軍刑務所があった。軍法会議で死刑判決を受けた青年将校らは、事件からわずか4か月半後の7月12日、刑務所の敷地内で刑に処された。84年前の、ちょうどこの時期のことだ。慰霊像の横に一体となって残る赤レンガは、その刑務所の壁だったともいわれている。

 30回忌にあたる昭和40(1965)年2月、青年将校らの遺族会「仏心会(ぶっしんかい)」によって建立されたこの観音像は、刑死した将校たちの慰霊だけを目的としたものではない。事件で命を落とした被害者──斎藤実内大臣や高橋是清大蔵大臣、渡辺錠太郎陸軍教育総監らを含めた、すべての犠牲者の鎮魂を目的としているという。

 首相経験者でもある斎藤内大臣や高橋蔵相の殺害についてはよく知られているが、陸軍軍人として唯一、部下である青年将校らに荻窪の自邸で惨殺された渡辺教育総監については、今年2月に刊行された初の本格評伝『渡辺錠太郎伝』(岩井秀一郎著)により広く知られることになった。

関連キーワード

関連記事

トピックス

滋賀県を訪問された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年10月25日、撮影/JMPA)
《すぐに売り切れ》佳子さま、6万9300円のミントグリーンのワンピースに信楽焼イヤリングを合わせてさわやかなコーデ スカーフを背中で結ばれ、ガーリーに
NEWSポストセブン
注目される次のキャリア(写真/共同通信社)
田久保真紀・伊東市長、次なるキャリアはまさかの「国政進出」か…メガソーラー反対の“広告塔”になる可能性
週刊ポスト
送検のため奈良西署を出る山上徹也容疑者(写真/時事通信フォト)
《安倍晋三元首相銃撃事件・初公判》「犯人の知的レベルの高さ」を鈴木エイト氏が証言、ポイントは「親族への尋問」…山上徹也被告の弁護側は「統一教会のせいで一家崩壊」主張の見通し
NEWSポストセブン
この笑顔はいつまで続くのか(左から吉村洋文氏、高市早苗・首相、藤田文武氏)
自民・維新連立の時限爆弾となる「橋下徹氏の鶴の一声」 高市首相とは過去に確執、維新党内では「橋下氏の影響下から独立すべき」との意見も
週刊ポスト
元・明石市長の泉房穂氏
財務官僚が描くシナリオで「政治家が夢を語れなくなっている」前・明石市長の泉房穂氏(62)が国政復帰して感じた“強烈な危機感”
NEWSポストセブン
新恋人のA氏と腕を組み歩く姿
《そういう男性が集まりやすいのか…》安達祐実と新恋人・NHK敏腕Pの手つなぎアツアツデートに見えた「Tシャツがつなぐ元夫との奇妙な縁」
週刊ポスト
女優・八千草薫さんの自宅が取り壊されていることがわかった
《女優・八千草薫の取り壊された3億円豪邸の今》「亡き夫との庭を遺してほしい」医者から余命宣告に死の直前まで奔走した土地の現状
NEWSポストセブン
左から六代目山口組・司忍組長、六代目山口組・高山清司相談役/時事通信フォト、共同通信社)
「六代目山口組で敵う人はいない」司忍組長以上とも言われる高山清司相談役の“権力” 私生活は「100坪豪邸で動画配信サービス視聴」も
NEWSポストセブン
35万人以上のフォロワーを誇る人気インフルエンサーだった(本人インスタグラムより)
《クリスマスにマリファナキットを配布》フォロワー35万ビキニ美女インフルエンサー(23)は麻薬密売の「首謀者」だった、逃亡の末に友人宅で逮捕
NEWSポストセブン
クマ被害で亡くなった笹崎勝巳さん(左/バトル・ニュース提供、右/時事通信フォト)
《激しい損傷》「50メートルくらい遺体を引きずって……」岩手県北上市・温泉旅館の従業員がクマ被害で死亡、猟友会が語る“緊迫の現場”
NEWSポストセブン
WSで遠征観戦を“解禁”した真美子さん
《真美子さんが“遠出解禁”で大ブーイングのトロントへ》大谷翔平が球場で大切にする「リラックスできるルーティン」…アウェーでも愛娘を託せる“絶対的味方”の存在
NEWSポストセブン
ベラルーシ出身で20代のフリーモデル 、ベラ・クラフツォワさんが詐欺グループに拉致され殺害される事件が起きた(Instagramより)
「モデル契約と騙され、臓器を切り取られ…」「遺体に巨額の身代金を要求」タイ渡航のベラルーシ20代女性殺害、偽オファーで巨大詐欺グループの“奴隷”に
NEWSポストセブン