新型コロナウイルスの感染に見られるように、過去にも人類は数々の感染症と戦ってきました。感染拡大を防止するには、他人との距離をとること。いわゆる「ソーシャル・ディスタンス」(社会的距離)を保つ必要がありますが、過去にも感染症が広がった時には距離をとってきました。これが、「異なる集団とは別々の生活をする」という習慣に発展していったというのです。
感染症の原因が不明だった時代には、そういった行動で感染を防いでいたのなら、それはそれで人々の知恵だったのか知れません。
また今回のコロナ禍は、新たな宗教紛争をもたらしています。感染拡大が始まった初期にイスラム教徒たちがモスクで集団礼拝をしていたことで感染が拡大したのではないかと、ヒンドゥー教徒たちが不満を持っているのです。
インドというとヒンドゥー教徒の国というイメージを持っている人も多いでしょうが、実はイスラム教徒も多数暮らしています。前述のモディ首相はヒンドゥー教徒。ヒンドゥー教徒優先政策を採用したことで、国内でさまざまな社会的摩擦を生んでいます。とりわけ未知のウイルスの感染拡大が続くと、人々は不安に陥ります。こういうときに日頃の差別意識が表面化しやすいのです。
インドが抱えるさまざまな矛盾が一気に噴き出したコロナ禍ですが、とはいえ、これでインドという国の勢いが削がれてしまうわけではありません。インドは、とてつもないパワーを備えた国だからです。ひとつには人口の多いこと。「人口は力なり」です。人口で中国を追い抜くインドは有利です。「21世紀はインドの世紀」となる可能性が高いのです。
そして、少しでも豊かな生活を送りたいというハングリー精神。インド人と話をしていると、そのアグレッシブさに戸惑うこともありますが、だからこそインドは発展すると思うのです。そんなインドについて、今後も注目していきましょう。
【プロフィール】いけがみ・あきら(ジャーナリスト)/1950年長野生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、1973年にNHK入局。報道局社会部記者などを経て、1994年4月から11年間にわたり『週刊こどもニュース』のお父さん役を務め、わかりやすい解説で人気を集める。2005年にNHKを退職し、フリージャーナリストに。名城大学教授、東京工業大学特命教授。愛知学院大学、立教大学、信州大学、日本大学、順天堂大学、東京大学、関西学院大学などでも講義する。主な著書に『伝える力』『知らないと恥をかく世界の大問題』など。近著に『池上彰の世界の見方 インド』『池上彰のまんがでわかる現代史 東アジア』がある。