参議院選では安倍首相が河井案里議員の応援演説に駆け付ける蜜月ぶり(写真/時事通信社)
その人物とは溝手顕正・元自民党参院議員会長。かつて安倍首相を「過去の人」と呼ぶなど批判的な発言を繰り返してきたことで知られる。安倍首相はその恨みを忘れておらず、権力を握ると溝手氏を参院議員会長から更迭(2016年)したうえ、2019年の参院選では広島選挙区から出馬した溝手氏に自民党から2人目の候補をぶつけた。その“刺客”に選ばれたのが案里氏だった。首相は案里氏の応援に自分の秘書4人を派遣したほか、自民党本部も河井夫妻に異例の1億5000万円を渡し、金権選挙が展開され、溝手氏は落選の憂き目にあう。
安倍首相の「お気に入りは出世させ、意向に従わない者は切る」という方針は官僚人事にも適用された。霞が関の各省庁の幹部たちは出世のために首相やその取り巻きの顔色をうかがうようになり、政策は首相の意向を忖度して決められるようになった。
こうして誰も安倍首相に逆らえない「一強」体制が確立し、長期政権につながったのである。安倍一強の長期政権は行政の大きなゆがみをもたらし、数々の政権スキャンダルが噴出する。
特に安倍首相と昭恵夫人がかかわったのが森友学園への国有地格安払い下げ疑惑と、首相の友人が経営する加計学園の獣医学部新設認可問題、そして桜を見る会疑惑だ。
「私や妻が関係していたということになれば、それはもう間違いなく総理大臣も国会議員も辞める」
森友疑惑では、首相のこの一言が財務省による文書改ざんを招き、財務省職員が自殺する悲劇まで生んだ。それにもかかわらず、安倍政権は数々の不祥事を封じ込めてきた。
しかし、コロナ危機で状況は一変する。検察庁法改正案への反対を訴える〈#検察庁法改正案に抗議します〉のハッシュタグが約900万リツイートされた“ツイッターデモ”に象徴されるように、国民がコロナの苦しみの中で政治のあり方に正面から目を向けるようになり、安倍政治の本質に気づいたからだ。