ライフ

大家が住人のゴミを開封、注意してもやめないのは人権問題

アパート大家が住人のゴミを確認。やめてもらうには?(イラスト/大野文彰)

 住まいのストレスは、負担を感じやすいもの。相談役となる大家さんには睨まれたくないが、その大家さんが気になる振る舞いをしていたらどう対応したらよいのだろう。三重県の会社員・Aさん(35才)もそんな大家さんへの対応に悩む一人。弁護士の竹下正己氏が回答する。

【相談】
 アパートの大家さんのことで相談です。私の住むアパートの住人はゴミの分別をきちんと行わない人がたくさんいます。これまで、大家さんが貼り紙をするなど注意をしてきましたが、改善されませんでした。そのせいで、大家さんは住人が捨てたゴミ袋を開けて中身をチェックするようになってしまいました。

 私はゴミの分別を守っているのですが、私のゴミ袋まで開けられてしまうので困っています。住人のゴミを開けてまで分別を確認する行為は、プライバシーの侵害にはならないのでしょうか。どうしたらよいか教えてください。

【回答】
 ゴミは、普通は経済的価値がありませんし、捨てたのですから所有権を放棄しており、所有権に基づいて大家の行動を制止できません。

 しかし、個人情報の観点から問題があります。ゴミ袋の中に封筒などがあればゴミを出した人が特定されます。特定の個人を識別することができるものは個人情報であり、個人情報保護法により保護の対象になります。

 診断書や処方箋などは要配慮情報として特に強い保護を受けます。個人情報保護法では、本人の同意なく個人情報を取得することを禁じています。ただし、法が規制するのは、業務のために個人情報のデータベースなどを作って利用している個人情報取扱業者です。

 大家が個人情報取扱業者といえる場合には、あなたの同意なく個人情報を取得していることをやめるように要求できます。話しても聞いてもらえないときは、市区町村役場の個人情報保護に関する窓口で相談するのがよいでしょう。

 また、袋の中のゴミの種類により、捨てた人の生活ぶりも推測できます。あなたの趣味・嗜好・性癖等に関する事柄がわかるゴミ、あるいは診断書や処方箋など身体状況に関する事柄がわかるゴミもあります。

 これらに関する個人情報を他人に収集されれば、強い不安を感じるのが当然で、私生活の平穏を脅かされることになります。

 ゴミからわかる私生活を他人に話すことは当然プライバシー侵害になりますが、本人の同意なく、ゴミ袋を調査すること自体もプライバシーへの介入といえます。

 大家が賃借人のゴミ袋を調査しなくてはならない何らかの正当な必要性があり、その必要性がプライバシー保護の利益を上回っているといえる事情がない限り、これらの行為はプライバシー侵害の不法行為になります。

 私人である大家が分別確認を理由に賃借人のゴミ袋の調査を正当化するためには、分別違反が悪質で放置すると住人みんなに被害が及ぶといえる状況の下で、違反者確認目的で調査する旨を賃借人にあらかじめ断りを入れるべきです。また、期間を区切って行うなどの配慮が必要でしょう。

 大家がこうした配慮がないままゴミ袋の中身を調査し、注意してもやめない場合には人権問題として法務局に相談することをおすすめします。

※女性セブン2020年7月23日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

今季から選手活動を休止することを発表したカーリング女子の本橋麻里(Xより)
《日本が変わってきてますね》ロコ・ソラーレ本橋麻里氏がSNSで参院選投票を促す理由 講演する機会が増えて…支持政党を「推し」と呼ぶ若者にも見解
NEWSポストセブン
白石隆浩死刑囚
《女性を家に連れ込むのが得意》座間9人殺害・白石死刑囚が明かしていた「金を奪って強引な性行為をしてから殺害」のスリル…あまりにも身勝手な主張【死刑執行】
NEWSポストセブン
失言後に記者会見を開いた自民党の鶴保庸介氏(時事通信フォト)
「運のいいことに…」「卒業証書チラ見せ」…失言や騒動で謝罪した政治家たちの実例に学ぶ“やっちゃいけない謝り方”
NEWSポストセブン
球種構成に明らかな変化が(時事通信フォト)
大谷翔平の前半戦の投球「直球が6割超」で見えた“最強の進化”、しかしメジャーでは“フォーシームが決め球”の選手はおらず、組み立てを試行錯誤している段階か
週刊ポスト
参議院選挙に向けてある動きが起こっている(時事通信フォト)
《“参政党ブーム”で割れる歌舞伎町》「俺は彼らに賭けますよ」(ホスト)vs.「トー横の希望と参政党は真逆の存在」(トー横キッズ)取材で見えた若者のリアルな政治意識とは
NEWSポストセブン
ベビーシッターに加えてチャイルドマインダーの資格も取得(横澤夏子公式インスタグラムより)
芸人・横澤夏子の「婚活」で学んだ“ママの人間関係構築術”「スーパー&パークを話のタネに」「LINE IDは減るもんじゃない」
NEWSポストセブン
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン