もともと一国二制度は英中共同声明に基づき、香港返還から50年後(今から27年後)の2047年に終わると決まっている。つまり一国二制度は、あくまでも中国が香港の主権を完全に回復するまでの過渡的な“方便”にすぎないのだ。
中国では50年もかからずに深セン、広州、上海、北京などが国際都市になり、香港がなくても世界から繁栄を呼び込むことができるメガリージョンが複数誕生した。最近は海南島に自由貿易港を建設し、香港に代わる貿易・経済拠点にしようとする動きも本格化している。
40年前にトウ小平が描いた香港の役割は中国の近代化の象徴としての“水先案内人”になることだったが、その歴史的使命は明らかに終わっている。むしろ治安維持に失敗し、それがチベットやウイグルなど他のデリケートな地域に及ぶことのほうがリスクが大きい。そういう認識が共産党中央にあり、香港が自らを傷つけて価値を落とすならそれは仕方がないことだ、という態度を取っていると私はみている。
また、香港人の中でも富裕層には、学生たちの反政府運動を苦々しく思っている人が少なくない。過激な抗議デモや破壊行動などが続いて多国籍企業が香港から撤退したら、自分たちが保有している不動産の価値が下がってしまうからだ。
香港を掩護する側に立つ欧米諸国にしても、複雑な事情を抱えている。
今回、アメリカのドナルド・トランプ大統領は中国の動きを「一国二制度を一国一制度に変えた」と批判、香港に認めてきた貿易などの優遇措置を停止し、当局者に制裁を科す方針を発表した。しかし、アメリカでも人種差別問題に対する抗議デモが全米に拡大して一部が暴徒化し、トランプ大統領は軍隊を配備することも辞さないと明言した。それを中国外務省の趙立堅副報道局長に「なぜアメリカは香港の暴力分子を“英雄”と美化し、自国内で人種差別に抗議する民衆を“暴徒”とみなすのか。明らかな二重基準だ」と揶揄された。