そんな朝倉の魅力について、ゼロ年代の格闘技ブームのドキュメントというべきインタビュー集『あなたの前の彼女だって、むかしはヒョードルだのミルコだの言っていた筈だ』(アスペクト)の著者で、ジャズ・ミュージシャン/文筆家の菊地成孔氏は次のように指摘する。
「朝倉未来選手の最大の魅力は、強いとか、不良上がりの平均装備である、『話が怖面白い』とかいったテンプレの遥か以前に、タトゥー(派手な)と、髪の染色と、それなりのカットやパーマという『不良の記号』が無いのに、物凄く悪く見える。という点に尽きると思います」
デビュー当時こそ金髪で不良然としていた朝倉だが、現在は一見するとビジネスマンのような雰囲気さえ漂わせたスマートな印象を放っている。しかしそうであるにもかかわらず、前述した『しくじり先生 俺みたいになるな!!』に登場した際も一瞬で場を凍りつかせる場面があったように、周囲を圧倒するオーラを身にまとっているのである。
初の著書『強者の流儀』(KADOKAWA)で、自らのことを「本当は弱点だらけで脆弱な存在」だとつづっていた朝倉。そうした弱さを“不良の記号”でカバーするのではなく、クレバーな戦略と絶え間ない努力によって乗り越えてしまうところもまた、他の総合格闘家とは一線を画した朝倉未来の魅力だと言えるのかもしれない。
●取材・文/細田成嗣(HEW)