上戸彩は妻役を好演(時事通信フォト)

 前作から7年という長い時間も、堺さんにとっては必要だったのかもしれません。ちょうど弓をキリキリと引いているような期間だったのかも。弓というのは、よくしなるとその分、戻る力も大きくなり飛ぶ矢には勢いが出る。溜めたものがしなりのようなパワーとなって、今回のドラマの中に一挙に注入されている、そんな感じがします。

 考えてみれば、堺雅人という役者はユニークで、あれほど人気が出た『半沢直樹』であっても慌てて続編に飛びつくことはしなかった。もちろん続編を演じれば必ず話題になるし、それなりの成果も手に入る。しかし、それは同時に「マンネリ化」という魔の手に絡め取られることにもなる……という難題に挑戦するかのように、堺さんはその後マイペースで仕事をしNHK大河『真田丸』等に出演しつつ、いわば視聴者を上手に待たせたのでした。潜伏する時間を確保できたのも、堺さんが知将である証でしょう。

 じっくりと時間をかけることによって、自分自身の中にマグマを貯め込みテンションも高めた上、マンネリ化を回避。役者としても半沢直樹一色に染まることから距離をとれた。「ようやく帰ってきました。感慨もひとしお」という堺さんのコメントに深い意味が詰まっていそうです。

 いわば自分の力を「倍返し」にする方法を選択できたのですからアッパレです。

 ドラマという娯楽は、演じる「人間」が発する感情やテンションに触れる楽しみに満ちています。他人の感情に触れてみたい、感情に反応してしまうというのは、生き物としての人間の本能かもしれません。それを存分に提供してくれるのがドラマ『半沢直樹』であり、堺雅人という希有な役者が心棒を支える娯楽世界なのでしょう。

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