同年のテレビドラマ『こんな男でよかったら』(読売テレビ)にも出演。主演は渥美清だった。
「雲の上の人ですが、可愛がってもらいました。関敬六さんのお店に飲みに誘われた時はハイヤーで家まで送ってもらって。
千葉のスナックで飲んだ時は、店から出たら道中に人が溢れているんですよ。渥美さんに会いたくて。その中をかきわけながらハイヤーを待たせているところまで歩く。日本ではスターを放っておいてくれないんですよね。だから、日常がない。
ですから、その日常も含めて、渥美さんは役として演じるしかない。オンオフではなくてね。そういうのを感じました」
七七年の映画『八甲田山』では遭難する兵の一人を演じ、緒形拳と行動と共にしている。
「緒形さんにも可愛がってもらいました。とにかくスペシャルな方でした。『八甲田山』の時は家でもわざわざ暖房のない寒い中で過ごしたりとか、役に対してストイックで。
僕、『教えてください。下條ってどうなんですか?』と緒形さんに聞いたことがあります。
そうしたら『お前、ホワイトカラーの役はやらない方がいいよ。そういうキャラクターじゃない』と。縦割り社会で自分を隠して生きる役よりも、自由に自分を出せる役の方が合うということなんだと思います」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。
■撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2020年8月14・21日号