患者発生による職場の消毒や、その間の休業は確かに損害ですが、重大な損害だとしてしまうには無理があります。また、家族感染があっても、自覚症状がなければ、感染したと思いたくないのが人情ですし、事実、家族間でも感染の有無が分かれた例も知られています。以上により、出社に重大な過失があったとまでいえるかも疑問です。

 ともあれ、感染のリスクがあったことは事実で、申告せずに出社を続けたことは社会人として批判されるでしょうが、解雇事由には当たりません。理屈をこねて解雇を強行しても「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には解雇は無効となります。似たような境遇の人は多くいますし、解雇が争われれば、世間の格好の話題になり、批判も受けるでしょう。

 こうした場合に備え、一定の場合には申告義務を課することも考えられますが、自分や家族の罹病情報は個人情報でもあり、疑問が残ります。家族が病気の場合でも、安心して休めるような職場環境を整えるのが王道だと思います。

【弁護士プロフィール】竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。

※週刊ポスト2020年8月28日号

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