需要取り込む世界の「自転車シフト」
部品メーカーであるがゆえに目立つ存在ではなかったが、シマノは知る人ぞ知る世界的な高収益企業なのである。
株式市場の評価は、とみに高まっている。新型コロナウイルスの影響により、株価が乱高下する東京市場で、シマノの株価は8月4日、上場来最高値の2万3670円をつけた。株式時価総額は2.1兆円(8月21日終値ベース)。コロナ前である1月末の時価総額は1.6兆円で86位だったが、65位へと順位を上げた。
時価総額では、スズキや日産自動車、SUBARU、キリンホールディングス、野村ホールディングス、三井不動産など日本を代表する大企業より大きい。特にスズキや日産といった完成車メーカーや、鉄道のJR西日本、小田急、東急を抜き去ったことは象徴的だ。「密を避けたい」という人々の行動様式の変化がシマノ躍進の背後に浮かぶ。電車よりクルマ、クルマより自転車の方が「密フリー」だからである。
業績も堅調だ。2020年12月期の連結決算は、売上高は前期比3.6%減の3500億円、純利益は12.5%増の583億円を見込む。新型コロナの影響で、大幅減益、赤字転落する製造業が続出する中で、シマノは2期ぶりの増益。一人勝ちの様相をみせる。新型コロナの影響による自転車部品の販売の減少は4月までで収まり、これ以降は通勤・通学に自転車を利用する需要の増加を見込めるようになった。
現在、売上高の88.8%は海外だ(2019年12月期)。1972年、ドイツ・デュッセルドルフにシマノヨーロッパを設立し、EUの販売拠点に。1973年にはシンガポールに海外初の生産拠点を設けた。今や、シンガポールが海外戦略の司令塔の役割を果たしている。
主力の欧州では、自転車専用レーンの延長、自転車の購入に対する補助金といった施策が相次ぐ。日本でもシマノの本社がある大阪・堺市が7月、通勤用の駐輪場を整備する企業に3000万円を補助する方針を打ち出した。
シマノによると、日本で20万円、欧州では1500ユーロ前後の中価格帯の自転車が伸びているという。「新たに購入する人も多く、将来は高額商品への買い替えが期待できる」(島野容三社長)そうだ。自転車部品以外でも、全体の売り上げの2割を占める釣り具の需要が伸びている。釣りが代表的なアウトドアのレジャーだけに、「3密」回避の需要を取り込める。
売上高営業利益率は18.1%。1ケタ台も珍しくない機械部品メーカーの中で、その収益力は群を抜いている。無借金経営で自己資本比率は91.3%。シマノは財務体質も「超」優良企業なのである。