「球が遅すぎて打たれなかったんだと思います」
コロナ禍によってアピールの場を失った高校球児の救済措置として開催が決まったのが今回の合同練習会だった。NPBのスカウトだけでなく、独立リーグや大学・社会人野球の関係者の来場も許されており、高校卒業後も野球を続けたい球児にとっては願ってもないイベントだったはずだ。
しかし、日本高等学校野球連盟は各都道府県の高野連を通じて、「参加希望者はあくまでNPB志願者」であることを強調し、最初から大学や独立リーグ目当ての選手の参加は控えるように通達していた。それゆえか、西日本会場の2日目に訪れたNPBスカウト96人に対し、それ以外のスカウトは6人。東日本会場も同様に、NPB以外の関係者の姿は少なかった。
また福岡大大濠の山下舜平大(しゅんぺいた)ら一部を除き、ドラフト指名が確実視されるような選手は参加せず、各都道府県の独自大会や甲子園で行われた交流試合で思うような結果が残せず、ボーダーラインに位置していると自覚した球児が最後のアピールの場として参加するケースが多かった。
そして、参加者の技術レベルには大きな格差があった。
西日本会場となった甲子園である意味、最も目立っていたのが大阪府立山本高校の笹谷虎次郎(ささや・こじろう)とみどり清朋の森山敬暁(たかあき)の外野手ふたりだった。外野ノックを受ければポロポロと白球をこぼし、カットマンまでボールが届かない。
とりわけ笹谷は、西日本会場の大トリでシート打撃のマウンドにも上がった(残念ながら急なゲリラ豪雨でグラウンドがぬかるみ、室内練習場での登板となったが)。練習会の2日後、山本高校を訪れると、笹谷は磁気健康ギアを販売する「コラントッテ」の金色のネックレスを着け、文字盤が金色の「G-SHOCK」をはめて学校の玄関に現れた。
「ゴールドが好きなんです(笑)。金といえば金メダルで1位、トップのイメージがある。そういう選手でありたいと思っています」
質問にハキハキと自分の考えを口にする好青年が目の前に立っていた。