【書評】『サラリーマン球団社長』/清武英利/文藝春秋/1600円
「読売巨人軍のオーナー代行でもあった著者が 愛情を込めて描くバックヤードの“野球人”」
門外漢がある日突然球団を職場にすると……。そんなドタバタ味もあるノンフィクションで、主人公は2人。阪神電鉄の旅行部門で長年働き、50代で阪神タイガースに出向を命じられた野崎氏。もう1人は創業者一族の子弟に請われ、マツダを退職して29才で広島東洋カープに転職した鈴木氏。野球ファンにはたまらない野球史でも。黒田がカープに戻ってきた日の感動が蘇る。
【書評】『口福のレシピ』/原田ひ香/小学館/1500円
「後半ホロリとするシーン続出。美味しさがつなぐ一族の歴史と友情」
友達同居の留希子と風花。伝統ある料理学校を営む一族に生まれた留希子は人気上昇中の料理ブロガーで、働き過ぎの風花に手料理をふるまい共に酒を楽しむ。そんな現代のシーンと、昭和初期に奉公先の主人に豚の生姜焼きを作るよう命じられたお手伝いさんの試行錯誤の日記が交互に登場。2つを結ぶものは? 風花の元ダンを除けばみんな善男善女。ほっこり幸せな読後感。
【書評】『「居場所」のない男、「時間」がない女』/水無田気流/ちくま文庫/880円 「サラリーマンの夫と主婦という固定モデル。多様性の中で、もっと幸せになりたいのに」
題名を別の言葉にすると、男は「関係貧困」、女は「時間貧困」。前者は退職した男性の孤立化、後者は育児中のワーキングマザーの苦難に象徴的で、大学教授である著者(夫も同職)の体験談からも、この国で子を産み育て働くことがいかに超人的なパワーを必要とするか驚くばかり。このままでは男も女も幸せになれない。紹介されているオランダのモデルに国家の英知を感じる。
【書評】『中古典のすすめ』/斎藤美奈子/紀伊國屋書店/1700円
「1960~1990年代のベストセラーを再読。『名作度』と『使える度』で意義を判定」
中古典とは著者の造語。古典になるかもしれないし消えるかもしれない中(宙)ぶらりんな本のことで、1960~1990年代のベストセラーを取り上げその歴史的価値を判定する。新風俗の青春小説、自立した女性達のエッセイ、偽ユダヤ人が書いた日本人論、全部古典に昇格させたいと書く戦争や工場労働などの社会派ノンフィクション。この時代は出版文化の最盛期でもありました。
文■温水ゆかり
※女性セブン2020年9月24日・10月1日号