心を投影して俳句に紡ぐ。「世の中っておもしろい!」
母が俳句を始めたのは60代半ば。それまで母の創作物を見たことがなかったから、句がぎっしり書かれた俳句帳を覗いたときは、気恥ずかしい思いがしたものだ。句の題材として、いろいろなものに目を向けているのにも驚いた。
認知症になったいまも街歩きを好み、キョロキョロ観察してはおもしろがるのも、俳句のおかげかもしれない。
「ママ、このハートの葉っぱのこと覚えてる?」
外出自粛で暇を持て余してぼんやりしていたこの夏、ふと思い立って聞いてみると、「もちろん覚えているわよ? Sちゃんがくれたのね」と、目を輝かせた。たまたまこの日、Sも母のサ高住に顔を見せた。大学4年生、就職活動のスーツ姿でいつになくかしこまっていた。
「え〜誰? Sちゃん? 大学生なの?」と、本気で驚く母。最近は時々しか会わない孫の年齢も曖昧になってきたのだ。きっとハートの葉っぱの向こうに、幼い孫の姿がよみがえっていたのだろう。
※女性セブン2020年10月8日号