制度を導入する際、菅首相は冷徹な一面をのぞかせた。
「自治体間で返礼品競争が起きるはず。制限をつけるべき」と進言した当時の総務省自治税務局長・平嶋彰英さんは、これが菅首相の逆鱗に触れて左遷。事務次官候補とまでいわれた人物が総務省を追われることとなった。
「霞が関は官邸による恐怖人事と震え上がり、“この人に逆らったら飛ばされる”という雰囲気が蔓延しました」
2017年には、加計学園ありきで獣医学部が設置されたのではないかと疑われた問題で、経緯について元文部科学事務次官だった前川喜平さんが「(安倍)総理のご意向」と明かすと、当時官房長官だった菅首相は、前川さんの社会的信用を傷つけるような個人攻撃を執拗に行った。
菅首相は今回の総裁選のさなかに「自分の方針に従わない官僚は異動させていただく」と発言し、物議を醸している。平嶋さんもある新聞社のインタビューで、役人は官邸が進める政策の問題点を指摘すると、自分以外の上司や部下、ひいてはトップの事務次官や大臣らの人事にも響くことを恐れていると語っている。その一方で、菅首相の覚えめでたい官僚は出世できる。
「通常、首相秘書官になるのは総務課長以上のキャリアを持つ人ですが、菅内閣で首相秘書官になる6人中4人が、その資格を持たない官房長官秘書官の持ち上がりです。つまり、自分のお気に入りを出世させている。ずっと登用し続けることで、菅さんの威を借る官邸官僚が好き勝手するようになり、周囲の忖度が生まれる。これは安倍さんのときと同じ構図です」
官房長官時代に記者会見で何度もバトルを演じ、菅首相の「天敵」とさえ呼ばれる東京新聞記者の望月衣塑子さんは「菅首相の権力の源泉は人事権」と指摘する。7年8か月かけて人事権を掌握したことが、総裁選の結果につながったというのだ。
「菅さんは自民党や中央官庁だけでなく、民放連や横浜市の人事にまでかかわっているといわれています。菅さん自身、『本当に自分を慕ってついてくるやつはわずか。皆、強いやつについていく』と語っていたと聞きます。だから“弱さを見せたら終わりだ”という意識が強いのでは。記者会見での私に対する横柄な態度も意図的なもので、強い自分を見せることで権威を高めたいのでしょう」(望月さん)