無類の読書好きは朗読も大好き
少し前になるが、母と朗読劇なるものに行った。演劇は好きでよく行くが、朗読会を見に行くというのは私も初めてだった。知人が出演することもあったが、娘が小学生のとき、PTAで読み聞かせをやって以来、ひそかに朗読には興味を持っていたのだ。
演目は、歌人としても知られ、私と同い年で同じ名前、東直子さんの短編小説『とりつくしま』。母は読んだことのない作品だ。幕が上がると端正な着物姿の朗読家がスポットライトに照らし出され、情感たっぷりに読み始めた。
「あら、本を読んでるのね」
さすがの母もいつもの演劇とは違うことに気づいたようで、戸惑いを見せた。「朗読するのを見るんだよ」と慌てて耳打ちすると、母はじっと朗読家を見つめた。私もすぐに物語に引き込まれた。切ないストーリーに加え日本語の文の美しさ。それが活字でなく声で入ってくる。朗読家の心の抑揚も見え隠れした。演劇とは違う魅力だ。
見ると母は目を閉じている。「寝ちゃった!?」。やはりいくら読書好きでも、状況がのみ込めなかったか……。居眠りの舟をこいでいるのかと思ったが、朗読家の語りにうなずいているようにも見えた。
演目が終わると会場は拍手の渦。私も初めての感動で思わず大きく手をたたいたが、それを追い越すように隣の母が身を乗り出した。会心の笑みで大拍手を送っている。
「すごくよかったね!!」
もう話の筋は覚えていないだろうが、確かに感動したことが笑顔の中に残っていた。
※女性セブン2020年10月22日号