スポーツ

高橋尚子 支えとなった高校陸上部監督からの3つの言葉

シドニー五輪では2時間23分14秒のオリンピックレコード(当時)で優勝。笑顔でゴールテープを切った

 2000年のシドニー五輪で、陸上競技としては64年ぶり、日本女子初の金メダルを獲得した高橋尚子(48才)。彼女が陸上と出会ったのは、岐阜市立藍川東中学に入学したときのこと。中学2年生のときに岐阜県大会で優勝した彼女は、スポーツ強豪校である県立岐阜商業高校に推薦で入学。陸上部の監督だった中澤正仁さんの言葉が、その後の自分を支える言葉になったという。高橋が当時を振り返る。

 * * *
 中澤先生は、山梨学院大学在学中に箱根駅伝を走った経験のあるかたで、たくさんのことを教わりました。なかでも、3つの言葉はいまでも座右の銘になっています。1つ目は『何も咲かない寒い日は、下へ下へと根を伸ばせ。やがて大きな花が咲く』。2つ目は『疾風に勁草を知る』。3つ目は『丸い月夜も一夜だけ』。

 1つ目は、高2のときに、初めて全国都道府県対抗女子駅伝に選ばれたのですが、そのとき、私はエース区間でもない2区を走って、区間順位は47人中45位だったんです。決して強い選手ではありませんでした。

 それ以後も、きつい練習をしてきたのに結果が出なくて、「この練習が力になるのだろうか」と不安になることや、逃げだしたくなることもありました。でもそのときにこの言葉を思い出し、「いまはがまんして地にしっかり根をはるとき。この練習は無駄じゃない」と、何百回、何千回と繰り返し口にして、心を切り替えてきました。

 2つ目は、「困難に直面したときに強さがわかる」という意味の漢語で、先生からは、「強い風の日こそ強い木がわかる、大きな木は一見、強そうに見えても、強い風が吹くと折れてしまう。だから、笹や竹のように、しなやかで臨機応変に対応できる人になりなさい」と、教えていただきました。

 大会に出るといろいろとハプニングが起きます。忘れられないのは1998年にバンコクで開かれたアジア大会。朝6時半のスタートで、午前3時くらいから朝食の予定でしたが、朝ご飯が届かなかったんです! 「これからマラソンを走るのに、朝食がない!」と驚きましたが、そのときにこの言葉を思い出して、「ご飯が届かなかったからといって、日の丸をつけて走れないわけではない。こういうときこそ、真の強さがわかる」と思ったんです。

 さらに悪いことに、この大会は12月に行われたにもかかわらず、気温が35℃以上、湿度が90%もありました。報道陣からも「暑いですけど、大丈夫ですか?」と聞かれて不安にもなりました。

 でもよく考えたら、雨が降って涼しくなるかもしれない。日も照らないかもしれない。先はわからないわけです。だから、“不安になる時間があるなら腹筋を50回した方が力になる”と思い、積み重ねてきました。そのおかげか2時間21分47秒のアジア記録(当時)で優勝することができたと思います。

 3つ目は、「いいときがあっても浮かれていてはいけない。優勝して喜んでいても、それはそのときだけ」ということです。この言葉があったおかげで、新記録が出た日は、もちろん喜びましたが、その翌日からは、いつも通りの練習を始めることができました。それも強くなれた一因だと思います。

【プロフィール】
高橋尚子(たかはし・なおこ)/1972年5月6日生まれ、岐阜県出身。中学1年生で本格的に陸上競技を始め、県立岐阜商業、大阪学院大学を経て、実業団・リクルート入り。1998年に名古屋国際女子マラソンで初優勝して以来、マラソン6連勝を果たす。2000年、シドニー五輪では陸上競技としては64年ぶり、日本女子初の金メダルを獲得し、同年、国民栄誉賞を受賞。2001年、ベルリンマラソンでは2時間19分46秒の世界記録(当時)を樹立。2008年10月に現役引退後はスポーツキャスター、マラソン解説者などで活躍している。

写真/共同通信社

※女性セブン2020年10月22日号

シドニー五輪の表彰台の一番高いところで、トレードマークの”Qちゃんスマイル”を見せる高橋尚子

関連記事

トピックス

趣里(左)の結婚発表に沈黙を貫く水谷豊(右=Getty Images)
趣里の結婚発表に沈黙を貫く水谷豊、父と娘の“絶妙な距離感” 周囲が気を揉む水谷監督映画での「初共演」への影響
週刊ポスト
宮路拓馬・外務副大臣に“高額支出”の謎(時事通信フォト)
【スクープ】“石破首相の側近”宮路拓馬・外務副大臣が3年間で「地球24週分のガソリン代」を政治資金から支出 事務所は「政治活動にかかる経費」と主張
週刊ポスト
自身のYouTubeで新居のルームツアー動画を公開した板野友美(YouTubeより)
《超高級バッグ90個ズラリ!》板野友美「家賃110万円マンション」「エルメス、シャネル」超絶な財力の源泉となった“経営するブランドのパワー” 専門家は「20~30代の支持」と指摘
NEWSポストセブン
15人の大家族「うるしやま家」(公式HPより)
《ビッグダディと何が違う?》フジが深夜23時に“大家族モノ”を異例の6週連続放送 今、15人大家族「うるしやま家」が人気の背景 
NEWSポストセブン
高校ゴルフ界の名門・沖学園(福岡県博多区)の男子寮で起きた寮長による寮生らへの暴力行為が明らかになった(左上・HPより)
《お前ら今日中に殺すからな》ゴルフの名門・沖学園「解雇寮長の暴力事案」被害生徒の保護者らが告発、写真に残された“蹴り、殴打、首絞め”の傷跡と「仕置き部屋」の存在
NEWSポストセブン
濱田よしえ被告の凶行が明らかに(右は本人が2008年ごろ開設したHPより、現在削除済み、画像は一部編集部で加工しております)
「未成年の愛人を正常に戻すため、神のシステムを破壊する」占い師・濱田淑恵被告(63)が信者3人とともに入水自殺を決行した経緯【共謀した女性信者の公判で判明】
NEWSポストセブン
指定暴力団山口組総本部(時事通信フォト)
《外道の行い》六代目山口組が「特殊詐欺や闇バイト関与禁止」の厳守事項を通知した裏事情 ルールよりシノギを優先する現実“若いヤクザは仁義より金、任侠道は通じない”
NEWSポストセブン
志村けんさんが語っていた旅館への想い
《5年間空き家だった志村けんさんの豪邸が更地に》大手不動産会社に売却された土地の今後…実兄は「遺品は愛用していた帽子を持って帰っただけ」
NEWSポストセブン
自殺教唆の疑いで逮捕された濱田淑恵被告(62)
《信者の前で性交を見せつけ…》“自称・創造主”占い師の濱田淑恵被告(63)が男性信者2人に入水自殺を教唆、共謀した信者の裁判で明かされた「異様すぎる事件の経緯」
NEWSポストセブン
米インフルエンサー兼ラッパーのリル・テイ(Xより)
金髪ベビーフェイスの米インフルエンサー(18)が“一糸まとわぬ姿”公開で3時間で約1億5000万円の収益〈9時から5時まで働く女性は敗北者〉〈リルは金持ち、お前は泣き虫〉
NEWSポストセブン
「第42回全国高校生の手話によるスピーチコンテスト」に出席された佳子さま(時事通信フォト)
《ヘビロテする赤ワンピ》佳子さまファッションに「国産メーカーの売り上げに貢献しています」専門家が指摘
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 岸田文雄が「闇将軍」になる亡国自民党ほか
「週刊ポスト」本日発売! 岸田文雄が「闇将軍」になる亡国自民党ほか
NEWSポストセブン