ウォール街での生き方は麻布で学んだ

 才能を持て余し、文学者を目指そうと思ったり、医者を目指そうと思ったり、オペラ歌手を目指そうと思ったり、プログラミングにハマったりしたが、紆余曲折を経てアメリカのニューヨーク州で弁護士になる。1989年のロックフェラーセンター売却にも関わった。しかしウォール街の弁護士としての湯浅さんの偉業はむしろほかのところにある。

「言ってみれば、不動産のような古い価値観からコンピューターやインターネットを含めたハイテク分野に価値観を切り替えたことです。あの段階ではインターネットなんて海のものとも山のものともつかないものでしたが、私はインターネット社会を予測する論文をアメリカで発表していました。その意味ではビル・ゲイツの先を行っていた(笑)。なぜなら私がウォール街にいたから。ロックフェラーなんかはいち早く古いビジネスを売って、ハイテクやコンテンツビジネスに軸足を移していました。その象徴がロックフェラーセンターの売却でした。当時はインターネット業界なんて赤字でしたよ。でもウォール街が従来のビジネスを捨ててでもそこに資本を投下したので、あれだけ急成長することができたのです。ちなみにリーマン・ショックもウォール街が悪いんですが、そのとき私は日本で湯浅ダンスをやってましたから、私には完全にアリバイがあります(笑)」

 ウォール街を生き抜くうえで役立ったと思う麻布での学びは何か。

「麻布の友人たちがみんな自分より優秀だという安心と自信ですね。ウォール街は基本自己リスクですが、自己リスクというのは実は友達リスクなんで。それぞれに専門分野が違うから、お互いにお互いを信用して任せるんです。エベレストに登るときに、みんなで命綱をつなぎますよね。あれと同じです。誰か一人がへまをしたら全員が高層ビルから真っ逆さまに落ちるハメになる。友達に命を預ける覚悟がなかったら、ウォール街の弁護士は1日、いや1秒たりとも生きられません。その点私には、友人たちが自分より優れていることへの尊敬と、そういうひとが実在するという無限の楽天主義があるんです。それは麻布で得た感覚です」

 ひとよりも勝ってやろうという競争心ではなく、それぞれに独自路線を進みながら、お互いを尊敬しお互いの期待に応えようとする心の持ちようといえばいいだろうか。

「それから、ユーモアを大事にするところ。ウォール街でも間抜けな人間的な怒鳴り合いとかしますよ。麻布もそうじゃないですか。でもそれも楽しんじゃうところが共通しています」

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