危険な誘いでも嫌われるのが怖くて断れないケースも
薬物は大人が考える以上に子供の近くにあるのだ。親はわが子が薬物に近づかないために何をすべきか。まずは、親しい友人や先輩から誘われたとしても、キッパリと断る勇気を持ってもらうことが大事だ。そのために、家庭では次のことに留意してほしいという。
「まずは親子ともに、薬物乱用の危険性を十分に理解しておくこと。中には『周りに迷惑をかけていないから吸引しても問題ない』と考えている人もいますが、とんでもない。薬物乱用は、幻覚や妄想等を引き起こし、心身の健康を損ねるだけではなく、その人の周囲、ひいては社会へも大きな影響を与えます。例えば、事故を起こす、カッとしやすくなり周囲の人を傷つける、借金、学校生活がおろそかになる、など薬物依存が生み出す問題はさまざまです。決して乱用者本人の健康問題だけではないのです」
とはいえ、危険性を知っていても、本人の精神状態によっては薬物に手を出してしまうリスクも高まる。
「その根底には、人間関係から来る自己肯定感や自己効力感の低さがあることがわかっています。危険な誘いだとわかっていても、嫌われるのが怖くて断れない。あるいは、悩みを1人で抱えて相談できず、つらさをやり過ごすために薬物に手を出してしまう。そんなケースも多くみられます。その有効な解決方法は、本人が自分の気持ちを素直に口に出せる、些細な悩みでも誰かに相談できる、そんな環境を整えておくことです。そのうえで、子供の些細な変化も見逃すことがないよう、日頃の言動や友人関係に気を配りつつ、注意深く見守るようにしましょう」
厚労省は、薬物乱用防止啓発訪問事業の一環として、全国の小学校、中学校、高校などで薬物乱用に関する訪問講義、薬物乱用防止読本の配布、SNSなどを使った情報発信をしている。それ以外にも、薬物乱用防止指導員として活動している人のための研修なども行っている。そして10月からは、同事業のイメージキャラクターとして、『ゆめきち』という猫キャラが決定。イラストを描いたのは、女性セブンで好評連載中の『トラとミケ』で知られる漫画家・ねこまきさんだ。薬物とは大きくかけ離れた、可愛らしくほんわかしたイメージのキャラで、起用にあたっては親しみやすさを重視したという。
「子供たちにも安心感を与えられるイラストだと思います。まずはみなさんに親しんでもらうことで、薬物乱用の危険性や自分の身の守り方を考えるきっかけにしてほしいと考えています」
先述の通り、薬物乱用の原因の1つには心の問題がある。私たちには、安心して自分の気持ちを吐きだせる居場所が必要だ。それを受け入れてくれる場所が家庭になかったとしても、社会にはある。そんなメッセージを、広く伝えていきたいという思いも込められている。