予約してあったのは店が定めたコースである。飲み物ならいざ知らず、勝手に料理を注文するわけにはいかない。幹部にそう説明したが無視された。店員が去ったあと、幹部が静かな声で説明する。
「ビールを飲み、キムチだけを食って帰ろうという訳じゃない。予約通りの安いコースを5人分頼まない代わりに、2人でいい肉を食ってそれ以上に使う。ここは知り合いの店だ。店は金を使ってくれさえすれば文句は言わない。お前は雑誌社に勘定を払わせ、5000円分(5人分)のポイントをもらう。たいした役得ではないが、俺はタダ飯・タダ酒を飲み、お前に恩に着せる。損をするのは国だけだ」
国の飲食店振興策である『Go Toイート』は、急ごしらえのばらまきシステムだ。指定のサイトを通じてネット予約し、食事をすれば、利用者は一人あたり昼食で500円、夕食は1000円分のポイントを手にできる。一回の限度は合計10人分で、最大1万円分のポイントが、予約した人間のアカウントに還元される。
「ちんけな金だが、店と組めばそれなりに小遣い稼ぎにはなる。食い詰めたチンピラたちはあれこれ考えているだろう。マスコミは警察の規制やコロナで食い詰めたヨゴレのようなヤクザが、コロナ禍の非常時にどうやって不正をするか読者にサラし、暴力団のような寄生虫に食い物にされる政府を嘲りたいんだよな?
今夜、あんたはわずか3000円だが不正にポイントを手に入れ、『Go Toイート』がザルなのを実学する。犯罪者の手口を知りたいなら犯罪者になってもらい、同じ穴の狢としてゆっくり話をしようや」
少額であっても、不正に荷担はできない。2人で利用するなら、それ以上のポイントはもらえない。狼狽していると幹部の携帯が鳴った。簡単に応対した後、幹部が笑いながら言う。
「今から5人若い衆が来る。予約したコースを支払い、そいつらに飯を食わせてくれ。俺の店につまみを用意してる。そっちでゆっくり話をしよう」
手の込んだ芝居でおもちゃにされても、苦笑いするしかなかった。