──好きな話になると、スイッチがすぐ入る。
山田「そうなんです。僕が好きな話題に差し掛かると、ついつい周囲を忘れて語ってしまって。野球で長嶋茂雄さんのことになれば、昭和33年、既に六大学野球でスターであった長嶋茂雄が読売巨人軍へ入団。この年の日本シリーズ、巨人対西鉄は歴史的対決となった。空前の人気を集めたルーキー長嶋を迎え撃つのは、入団3年目にして鉄腕の名をほしいままにしていたエース稲尾和久! わずか3年で89勝という偉業を達成していた稲尾。長嶋と初めてまみえた後楽園球場の1回戦、1回裏二死満塁の場面では……」
──えーっと、あの山田さん、山田さん!
山田「あ、は、はい!」
──ガチでワールドへ没入されるんですね。
山田「そうなんです、この癖が『絡みづらい芸』と言われるところなんですかね(笑)。これを聞いてくださって、ぜひ観客の前で演るべきだと仰ったのが高田文夫先生で。家族からも『演れ』と言われてたんですが、どうしてもこれを話芸とは思えずに自信がなくって。でも、高田先生に後押しされ、2009年に下北沢の劇場で始めましてね」
──客を前にして演じてみてどうでした?
山田「不思議なことに喜んでくれたんです。嬉しかったですね、自分の拙い思い入れの喋りを楽しんでもらえたんですから。それから競馬のハイセイコー、オグリキャップ。スポーツでは『江夏の21球』や『甲子園バックスクリーン3連発』。人物伝では有森裕子さんや永六輔さん、藤山寛美先生など題材に十年続けてきまして。これは全て、高田先生が下さった太鼓判のお陰なんです」
──語りは台本を書かれるんですか。
山田「関係者やご本人へ取材を繰り返しまして、原稿用紙で250枚以上は書きます。それを刈り込んで一時間ものにしていく」
──ひとりの観客として山田さんの語り芸を聞いて、山田さんがホントにファン目線で語るんだなあと感動しました。
山田「僕が演る語りは、とにかく自分が惚れ込んだ人や事件です。寛美先生に対しては、僕、若い頃に松竹新喜劇のオーディションを受けたくらい憧れてましたから」