宇野氏はどんな心境だったのか。
「掛布さんは試合前に安藤監督から『タイトルホルダーになる機会はめったにないから2人とも取らせる』と聞いていたそうですが、私は若造(26歳)だったので何も知りませんでした。試合後には怒った阪神ファンがグラウンドに乱入したので照明灯が消されたほど。当時もさんざん叩かれましたが、今考えてもファンが見に来ている中で残念な出来事です。
勝負していたらどうなったかはわかりません。私も掛布さんも全イニング出場を続けていたので、それさえなければ、“2人とも欠場”を監督から命じられていたかもしれません。
当時は若いからまたチャンスが来るだろうと思っていました。実際に翌年は4本増の41本塁打でしたが、バースが54本打ったので遠く及びませんでした。結局、プロ生活で獲得した個人タイトルはこの年のホームラン王だけなので、今となっては“大人の判断”に感謝したい気持ちもあります」
※週刊ポスト2020年11月6・13日号